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西研コラム

〈第17回〉コストダウンさけぶあなたがコスト高


2017年8月30日

ちょっと旧聞に属するけれど、観光シーズンに入った 4 月に大きな交通事故が続いて発生しましたね。4 月 12 日には、京都市の四条通りで横断歩道を渡っている人の群れに暴走車が突っ込み、運転者を含め、8 人が死亡した。ドライバーに「てんかん」という持病があり、運転中に発作が起こったのではないかと言われているようです。

 

 

実は私は、当日は京都におりました。午前中に仕事があって、早朝から 11 時頃まで某研究所でコンサルティングの仕事をしたんですが、翌日も京都で仕事があるので、横浜の自宅に帰るわけにもいかず、さて、午後はどのようにして過ごしたらいいのか、思案のしどころだった。幸いと言うべきか、今年は 3 月に入ってから低温の日が続き、京都ではいつもより 1 週間ほど遅れて、12 日はまさに桜が満開で、見頃だった。で、八坂神社、円山公園にでも行って、花見と洒落込もうかと考えたのでした。

 

 

京都駅に引き返して早目の昼食を地下街のレストランでとり、ホテルにいったん戻って、荷物を置いて出かける積りでした。泊まっていたホテルは烏丸四条近くだったので、四条通りに出て東に行けば 25 分くらい歩いて目的地に行ける。京都に来るといつも早朝に、四条通りを抜けて鴨川に出、河原を歩くというウォーキングをやっているから、手馴れた道筋だったのです。

 

 

すぐに出かける積りだったのが、ちょっとベッドに横になり本を読んでいるうちにいつしか眠ってしまった。かなり疲れていたようで、目が覚めたのは 3 時過ぎ。慌ててホテルを出て、八坂神社に向かった。四条大橋を渡って歌舞伎の南座の前に差し掛かった辺りから様子がおかしい。あの事故発生から 2 時間後の現場を通り過ぎようとしていたんですね。周囲は警察によって封鎖されていて通り抜けは出来なかったが、望見すると靴や、帽子、それに車のバンパーらしきものが交差点内に散乱していた。現場を取り囲んだ人たちの話から判断して、酷い事故が起こったらしいことが分かった。

 

 

現場を迂回して神社に向かいながら、よくよく考えてみたら、自分が事故に巻き込まれた可能性もゼロではなかったことに気付き、ゾッとした。もし、ホテルで眠りこけることなく、すぐに出発していたら、事故が起こった横断歩道を、まさにその時間に渡っていたかもしれないのだ。危ないところだった。

 

 

ところが、その 2 週間後に、今度は名古屋に出張した際、文字通り目の前で自動車の衝突事故が起こるという場面があった。26 日の朝、クライアントの会社に向かうべくタクシーに乗っていたんです。車は桜通りを東に走っていて、伏見通りの交差点に差し掛かったところで赤信号となったので停止していた時、目の前でその事故は起こった。伏見通りを北上してきた(私の乗ったタクシーから見て、右側から走ってきた)バンが中央寄りの車線から左車線に変更しようとしたらしい。交差点内で車線変更をすること自体がそもそもイケナイのだが、左車線を後方から走って来た自家用車が、いきなり前に出てきたそのバンの左ドア付近に追突し、そのはずみで私の乗ったタクシーをかすめて、左脇の電柱に激突したのです。バンからは運転手が降りてきたが、自家用車からは煙が立ち昇り始め、人が出てくる気配もなく、運転手は負傷しているのではないかと思われた。この事故だって、まかり間違えば、自家用車は電柱ではなく私の乗っていたタクシーにぶつかったかもしれない。

 

 

間もなく、青信号になったのでタクシーは現場を離れ、その後のことは分からないが、2 回も続けて、身近で事故が起こったという事実はどう考えたらいいのだろうか? 2 度あることは 3 度ある。次は、自分がホントに事故に巻き込まれるかもしれないぞという警告か?

4 月 23 日には京都府亀岡市で、無免許運転の若者の車が、登校中の小学生の列に突っ込み 3 人が亡くなるという事故があり、さらに、ゴールデンウィークに入った直後の 4 月 29 日には、群馬県の関越自動車道で長距離夜行バスが防音壁に激突して、7 人の死亡者を出した。バス会社がコスト削減のために、運転手と不法な状態の雇用関係を結んでいたとか、深夜の長距離運転をドライバー一人に任せていた(これは違法ではないようだが)ことなどが安全上問題視されている。

 

 

そんな折、格安航空会社(LCC)の機内サービスについての議論が起こった。まず、添付の文書を見て頂きたい。これは LCC の一つであるスカイマークの座席ポケットに入れられていたという乗客向けの文章なんです。私はこれに関するニュースを、朝のウォーキングの途上にラジオで聞いたのだが、アナウンサーは、「丁寧な言葉使いを当社客室乗務員に義務づけておりません」という件に怒りをぶつけていましたね。蛇足ながら付け加えておくと、このビラには「言葉使い」と書いてあるけれど、これは間違いで、「言葉遣い」が正しい。広辞苑、大辞林、明鏡など主要な国語辞書はすべてそう書いてある。これを見るにつけてもこの会社の知性が疑われ、このような馬鹿げた告知文を作るのも、そんな頭の連中だからなのだろうとは思わざるを得ない。

 

 

閑話休題、話を戻しましょう。そのアナウンサーは、「丁寧な言葉遣いをしてもコストがかかるわけじゃないのだから、ちゃんとした言葉遣いをさせるべきだ」と憤慨していたけれど、このコメントは間違いですね。

CA(キャビン・アテンダントを最近はこう言うらしい) を目指して航空会社の就職試験を受けようとする場合、出来のいい人は ANA とか JAL を目指し、落ちこぼれた者がスカイマークのようなところに行かざるを得なくなる。そんな彼女らはきちんとした話し方はできず、当世の若い女性の特有の、つまり幼稚園生か小学校低学年生のような甘たれた喋り方をするだろう。「****してぇ~」「****だからぁ~」「****じゃないですかぁ~」(ゴシック体のところは、ストレスを置いて読んで下さい)・・・・みたいなぁ話し方ですね(イケナイ、こっちまでそんな話し方が移ってきた)。

これを正そうとすれば、教育研修しかない。講師(外部からにせよ、内部講師にせよ)を雇い、正しい話し方を時間をかけてみっちりと教え込まないといけない。そうすれば、どうしたってコストがかかってしまう。お金をかけるのが嫌だから研修をせず、「丁寧な言葉遣い」のできない CA を乗務させることになる。

 

 

言葉遣いの問題ならまだいい。懸念されるのは、安全にかかわることでも教育訓練の手抜きしているのではないか、しっかりした研修をしていないのではないか、ということ。

関越自動車道の事故だって、結局はコスト・ダウンをしたいがための、安全への軽視が原因と言ってもいいでしょう。

こんな懸念を持っていた矢先、先日、LCC の安全対策は問題があると指摘するニュースが流されていた。たとえば、機体整備を自らの手で行わず、下請けに出す LCC もあるということですよ。整備は安全上、最も重要なことだと思うけれど、それを人任せにしてコストダウンを図るというのはいかがなものか。

下手をすると、「事故の際、機体からの脱出に際し、当社の客室乗務員は避難誘導を一切致しませんので、ご自身で身の安全を確保して下さい」ということになるんじゃないか? 「脱出の手助けを一切してくれなかった」とクレームを言おうとしても、「苦情は一切受け付けません」と書いてあるしね。「安かろう、悪かろう」が安全にまで及んでいるとなると由々しきことですね。

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バスや飛行機だけではない。あらゆる領域でコスト・ダウンが至上命令となってきていますね。韓国や中国などとの競争が激しくなって、私の主な関心事である電池の分野においても然りです。そのために犠牲になるのが、安全とか品質に関わることでなければいいのですが、どうもその懸念が的中しそうな状況になっているのでは?

 

 

昨年のことだが、中国の某電池メーカーの品質バラツキがあまりに大きいので、もう少し品質管理をしっかりして欲しいと要望したら、「値段が倍になるけどいいですか?」と言われた。つまり、品管で手抜きしてコスト・ダウンを図っていることを白状したわけです。日本のメーカーは大丈夫でしょうね?

「コスト・ダウン、コスト・ダウン」といつも部下を煽っていると

コストダウンさけぶあなたがコスト高 

(江坂彰「『徒然草』的生き方」PHP 研究所)

と言う川柳を突きつけられますよ。


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