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西研コラム

〈第2回〉お盆の上の豆


2017年8月30日

前回、「サッカー・ワールドカップはそれほど大きな関心を持たれていない」という話を書いたら、その後の日本チームの活躍(?)ぶりと、それに対する国民の熱狂的(?)な応援を映したテレビ放送などを見た人から、「あの意見は撤回した方がいいんじゃないの」という忠告を受けた。

 

ところが、ああいう放送に対してこそ眉に唾しないといけない、つまり「マスコミが一斉に同じことを言い始めたら要注意」だということを言いたかったんですよ、あの拙文では。
「世論なんてお盆の上の豆のようなものよ。お盆を右へ傾ければ、ザザーッと豆は右へ転がる。左へ傾ければまた左へザザーッと・・・・」、 とは作家・曽野綾子の言葉だということだが(2004/05/28 の産経抄)、うまいことを言いますねえ。

 

今度のサッカー関連の放送を見ていると、マスコミがお盆を傾ける操作をしているというのがよく分かる。「国民の皆が熱狂」とか「勇気をありがとう」などという視点のニュースばかり流しているから、国中全体がサッカーに夢中というトーンになってしまう。でも、私の周辺の人に訊いてみたが、「試合なんかぜんぜん見ていない」という人が 7 割くらいはいましたね。「そりゃ、西さんの周辺の人なんて年寄りばかりだからでしょう」と言われそうだが、そんなことはない。若い人もだいぶ含まれています。

 

青いユニフォーム姿の連中や、スポーツ・カフェに集まる人などにインタビューすれば、「サッカーに日本中が熱狂」というニュースになってしまうのは当たり前。もし、銀座でも新宿でもいいけれど、街頭で無作為にインタビューして編集なしでそのまま放送したら、少なめに見積もっても半数は「興味なし」という結果になってしまうだろう。放送局も新聞も、そんなことはしないで、「ニッポン、チャチャチャ」という人だけを取り上げて番組を作るから、ああなってしまう。つまり、マスコミが「日本中がワールドカップに熱狂」という方向にお盆を傾けているとしか思えない。

 

あの放送時間帯に夜勤だったり、残業だったりして、仕事に追われている人も大勢いたはずでしょう? 早朝の試合もあったが、その時間帯でも出勤のために始発電車に揺られているという人もいる。でも、そんなことは報道ではおくびにも出さない。

 

技術についての報道についてもミスリーディングをしているとしか思えないものがしょっちゅうある。私が専門とする電池についてもその通り。最近のことだが、リチウムイオン電池用の正極で、従来の 2 倍以上の容量密度を持つものを某研究機関が開発したという記事が某経済紙に載った。「エッ、知らなかったなあ、そんなこと」と思って関連文献などを調べてみると、なるほど容量は大きいが、いろいろな excuse があって、普通に使ったのでは従来のものと五十歩百歩の性能しか出ないといった代物だということが分かった。

 

後日、その新聞社の記者に会ったとき、どうして問題点も併せて書かないのかと聞いたら、「編集長が書くなと言ったから」だと宣った。つまり、読者に「すごいものができたなあ」と思わせたいんですね。言ってみれば読者に媚びを売っている。

そういえばこんなこともあったっけ。何年か前のことだが、某電池メーカーが、無機固体電解質を使って薄い電池(ペーパー電池とでも言うべきもの)を開発したというニュースが某国営放送局で流されたことがあった。薄いということを見せるために、ハサミで切れますと言って、ハサミ(金属製)を使って切って見せていた。それを見て私は、そんなこけおどしは止めてもらいたいと思った。

 

たとえば、ラミネートセルなどと称する薄い電池は現在では商品化もされていて、もちろんハサミで切ろうと思えば切れるけれど、危険を承知でやらなければならない。なぜなら、ハサミ(金属)で切るときにショートを強制的に起こしているわけで、火花が出たり、下手をすると燃え出す。

 

しかし、ニュースで流れた切断シーンでは何事も起きなかった。小さな火花すら飛ばなかった。ということは、固体電解質のイオン伝導度が極めて低く、ショートさせてもほとんど電流が流れていないということをはしなくも示しているわけで、そんなものはほとんど実用価値がない。少し考えればその程度のことは分かりそうなものだが、放送したテレビ局の連中はまったくそんな様子も見せず、感嘆しきりだった。ひょっとすると、たいしたものじゃないということはとっくに承知の上で、無知だと彼らが思い込んでいる聴視者を驚かそうとしているだけなのかもしれない。だが、我々はそれほどバカじゃない。

このようなインチキ報道に引っかからないためにはどうしたらいいか。私は、ツッコミを入れることにしている。ペーパー電池の例で言えば、「どうして火花が飛ばないの」とか「そんなにすごいものなら、どうして商品にしないの」と言ったようなツッコミだ。
突っ込みは、政治や、経済関連のニュース(マスコミがいっせいに同調するようなニュース)にも有効ですよ。すぐに、いい加減さを見破ることができます。


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