EHS総合研究所

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〈EHS研究所 コラム18〉「EU持続可能な化学物質戦略」


2022年8月8日

EHS 総合研究所
所長 則武祐二

「EU持続可能な化学物質戦略」

EUで進められる「無毒環境に向けた持続可能な化学物質戦略」の概略と、日米の化学物質管理とは何が異なるか。

 

 

背景

欧州委員会が2020年10月に「無毒環境に向けた持続可能な化学物質戦略」(CSS: Chemicals Strategy for Sustainability -Towards a Toxic-Free Environment)を公表しました。その後、計画に従って進められている部分もあり、概略を示したいと思います。

 

 

日米欧の化学物質管理に関する基本的な考え方の違い

日米欧の化学物質管理に関しては基本的に下記が異なります。

 

日本は化学物資に関して、政府が法律によって定め、企業は法律に従っているかを問われます。化学物資汚染や労働災害が起きた際に法律が不十分だと、予見可能であった場合には政府の責任が問われます。以前の本コラムに示しました化学物質管理法の改訂により、規制する化学物質を特定する方向は見直されますが、基本的には政府が知見に基づいて規制することは変わりません。

 

一方で米国は州や法律によって違いはあるものの、規制の有無に係わらず化学物質による被害が生じた場合には企業の責任が問われます。関連する事業で得た利益をすべて罰金として請求されることもあります。

 

EUは化学物質に関しては予防原則により、企業に厳しい規制となる傾向が強かったのですが、最近は化学物質の有害性に基づくハザードに焦点を当てた規制から、リスクベースの規制に変更されつつありました。しかし、今回の新化学物質戦略では再び有害性に焦点を当てたハザードベースの規制になることが示されています。いずれにしろEUは、厳しい規制により企業に制約を行い、化学物質の影響を未然防止しようとするものです。

 

 

EU化学物質戦略(CSS)のポイント

以下がキーポイントとして示されています。

  • ・化学物質が社会への積極的な貢献を最大化し、環境への影響を低減する方法で生産されることを保証する
  • ・化学物質の使用が「不可欠」であるものの定義が必要であり、化学物質を「設計上安全で持続可能な」ものにする方法について明確に概説された方法論が必要である。「懸念物質」が、業界が適応できるように、最も包括的、明確かつ単純化された方法で特定、評価及び分類されなければならないことを強調する。
  • ・EUが安全で持続可能な化学物質の生産と使用において世界の先駆者であるべきだという見解を称賛し、企業のための国際貿易協定における公平な競争条件を確保し、すべてのEU市民のための公正な移行のための措置の重要性を強調する。
  • ・戦略を成功させるためには、意思決定プロセスへの透明性と関与と相まって、人々と業界の関与、革新的な考え方が必要。
  • ・この戦略は、リスク管理への一般的なアプローチを、発がん性、変異原性、内分泌かく乱物質などの有害化学物質を含む消費者製品に拡大することを目的としている。しかし、業界が適応しやすくするためには、一般的な評価とリスク評価のバランスを確保する必要がある。
  • ・ナノ材料含有製品を含めてサプライ チェーン全体を対象として、適切で一貫したラベル表示を義務付けるよう求めている。
  • ・特に健康用途に使用される化学物質に関して、EUの戦略的自律性を強化する努力を歓迎し、他の部門においても同様の努力を見たいと考えている。EU諸国における主要な化学物質生産の一部を移転することを目的として、EU産業政策の改変を検討することを求める。
  • ・イノベーション、消費者の信頼を高め、適切な影響評価を実施するために、化学データの可用性の欠如に取り組むことの重要性を強調する。データへのアクセスを制限する工業所有権や特許をレビューし、「データなし-市場なし」の原則を強化するためには、研究成果のためのアクセス可能で信頼性の高いデータベースを用意することが不可欠である。
  • ・化学混合物に対応することは、リスク評価において前進であると考えている。しかし、知識の実際のギャップをカバーし、化学混合物の評価と管理を進めるには、より多くの研究開発が不可欠である。

 

 

2022年を中心に詳細な行動計画が示されており、その中にはREACH、殺生物製品規則、植物保護剤規則、食品接触材料規則 化粧品規則などの改訂も計画されています。
今後進められる様々な改定点等については、必要に応じてコラムで紹介して行きたいと思います。

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