〈EHS研究所 コラム54〉カーボンニュートラルには再生材料利用拡大
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〈EHS研究所 コラム54〉カーボンニュートラルには再生材料利用拡大

公開日:2025.09.19

EHS 総合研究所
所長 則武祐二

カーボンニュートラルには再生材料利用拡大

再生材料市場の拡大のためには再生材料を活用した最終製品の市場拡大が不可欠

買うことから始まる再生材料利用拡大

 

背景

EUでのサーキュラー・エコノミーの目的の大きなものとしてカーボンニュートラルがあります。企業のGHG(温室効果ガス)排出量にも資源利用が大きな比率を占めることが多く、企業にとっても再生資源利用の活動は重要なものになってきています。しかし再生資源の利用はコスト高などの課題も多く進んでいません。再生材料市場の拡大のためには再生材料を活用した最終製品の市場拡大が不可欠です。ポイントは再生材料を利用した最終商品の購入拡大となります。

 

資源消費の問題

国連環境計画国際資源パネル(UNEP IRP)の「世界資源アウトルック2024」では、世界の天然資源の採取と加工が、地球全体の温室効果ガス排出量の要因の55%以上を占めているとしています。天然資源利用の削減は気候変動対策に対しても極めて重要な取り組みです。

 

①日本の資源循環利用状況

国内で利用される資源のうち、再生資源が占める割合を示す入口側の循環利用率は、2022年度に16.3%です。資源循環が必要と言われているにも関わらず図1に示すように最近上昇していません。

図1.入口側循環利用率(循環利用量/(循環利用量+天然資源等投入量))の推移

図1.入口側循環利用率(循環利用量/(循環利用量+天然資源等投入量))の推移

(出典: 令和7年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書)

 

2018年に閣議決定した第4次循環型社会形成推進基本計画で、入口側の循環利用率の日本の目標は、2025年度に18%程度 を目指すと設定されていましたが、達成の見込みがないまま、2024年8月に第五次循環型社会形成推進基本計画で、2030年度に約19%が決定しています。

 

②スコープ3排出削減のために

企業のGHG排出量削減についてはスコープ3の排出量削減が重要になってきています。製造業ではスコープ1,2よりもスコープ3の比率が高く、中でもスコープ3のカテゴリ1の比率が高いことが多いです。表1にいくつかの電気機器企業を例として示しました。
 

表1.カテゴリ1購入した製品(サービス・原材料などの採掘、加工など)の比率


年度 スコープ1+2
(Mt-CO2e)
スコープ3
(Mt-CO2e)
カテゴリ1
(Mt-CO2e)
カテゴリ1/
スコープ3(%)
電気機器A社 2023年度 2.5 38.0 4.8 12.6
電気機器B社 2024年度 0.93 7.2 3.2 44.6
電気機器C社 2024年度 0.87 3.8 2.6 66.4
電気機器D社(電池) 2024年度 0.28 2.4 2.4 99.9
電気機器E社 2023年度 0.23 1.8 0.9 48.3

(出典:各社webサイトのデータを基に作成)

 

カテゴリ1の排出量を削減するためには、「販売する製品を軽量化する」、「販売数量を減らす」、「採掘や加工の少ない材料・部品を使用する」などが考えられます。「販売数量を減らす」ことは売上高の減少が避けられないでしょうから、経営的な影響を最小限にし、GHG排出削減を進めるためには、再生素材や再使用品の拡大は経営的にも重要になるでしょう。

 

 

グリーン市場の拡大

資源確保段階、生産段階、流通段階、使用段階、廃棄・再資源化段階の各段階を最適化することが循環経済に重要とされていますが、行動としては流通段階から使用段階に至る間に購入段階があります。再生資源利用拡大には購入活動が重要な役割であり、不可欠な活動となります。

図2に示した製品購入段階の再生・再使用材料のニーズが高まらなければ製品製造者は価格転嫁ができません。仕入れ品に対しての価格転嫁もできません。再生素材市場が経済的には成り立たずサーキュラー・エコノミーの目指す資源経済の実現は困難なものとなります。再生素材市場が拡大すれば、再資源化の量は増加し量産効果による価格低減が進み、より良い循環を生むでしょう。

 

図2.再生材料拡大に関するライフサイクル

図2.再生材料拡大に関するライフサイクル

 

表2に環境白書に示された「3Rに関する主要な具体的行動例の変化」の調査結果の中の「再生原料で作られたリサイクル製品を積極的に購入していると回答した割合」の経年変化では、残念ながら顕著な変化は見られません。

 

 

表2.3Rに関する主要な具体的行動例の変化(抜粋)

2018
年度
2019
年度
2020
年度
2021
年度
2022
年度
2023
年度
2024
年度
再生原料で作られたリサイクル製品を積極的に購入していると回答した割合(%) 10.5 9.7 10.2 13.8 8.5 9.3 11.5
注: 2024年度は、「ごみを少なくする配慮やリサイクルを(いつも・多少)心掛けている」と回答した人のみを対象としているため、2023年度以前との比較はできない

(出典: 令和7年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書)

 

 

まとめ

残念ながら、再生材料の市場はあまり拡大していません。特に購入活動においての変化が見られていません。この状況では製品への価格転嫁が進まず、再生材料の仕入れ価格の上昇も見込めません。この状況で規制的な手法が取り入れられれば、利益の減少と成⻑抑制のおそれがあります。グリーン購入法などの購入促進策の拡大に期待したいと思います。

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