〈EHS研究所 コラム55〉再生材料利用のCFPへの効果
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〈EHS研究所 コラム55〉再生材料利用のCFPへの効果

公開日:2025.10.16

EHS 総合研究所
所長 則武祐二

再生材料利用のCFPへの効果

再生材料利用によるカーボンフットプリントの低減効果を示すことで、

再生材料利用拡大を期待できる

 

 

背景

カーボンニュートラル(CN)には再生材料の利用拡大とカーボンフットプリント(CFP)の拡大が不可欠であることを、前々回のコラム53と前回のコラム54に示しました。また、各々にグリーン購入・調達が重要であるあることも示しました。グリーン購入を進めるうえで、再生材料の利用が製品のGHG(温室効果ガス)排出削減にどのような効果があるかをCFPで確認できれば、グリーン購入の促進に役立つことができます。

 

原単位2次データ(AIST-IDEAの例)

CFPの算出には1次データの取得が望ましいですが、現実には原単位の2次データの利用は不可欠です。代表的なデータベースとしてAIST-IDEA[i]があります。CFPの算定に必要となる排出原単位が収納されている世界最大規模のインベントリデータベースで、多くのLCA等の算定システムに利用されています[ii]。IDEAの再生樹脂のデータは充実されつつあります。また、IDEAでは、国によって電炉鋼の利用比率が大きく異なっていることに関して平均値を採用するのではなく、電炉鋼プロセスを作成するなど、様々なデータの改善が進められています。[iii]しかしながら再生材料を利用してもCFPに反映できないことも多いと思います。一方で企業の取り組みが進んでいることもありますので紹介したいと思います。

 

再生プラスチック使用とCFPの事例

再生材料を利用した最終製品のCFP等のデータ開示が進みつつあります。コラム53[iv]に示しましたように、日本ではグリーン購入法において、再生プラスチック利用などと共に、CFPの算定・開示が、多くの対象品目で判断基準や配慮事項に入れられています。その結果多くの企業がCFPを開示しています。

 

①複合機での活用

リコーでは多くの複合機のCFPを開示しています[v]。CFPの算定には前述のIDEAを利用していますが、一部の再生材料に関しては2次データではなく、サプライヤから1次データを取得し算出しています。複合機RICOH IM C6010シリーズでは,プラスチック素材の重量ベースで50%以上に再生プラスチックを使用しています。再生プラスチック使用以外の効果も含めてですが、前身機よりCFP値が27%低くなっていることをアピールできています。再生プラスチックは品位の低いものとの思われがちですが、この製品で使用されている再生プラスチックの多くは強度、耐熱性や難燃性等が求められる高品位のエンジニアリングプラスチックです。1次データから新たに算出した再生プラスチックの原単位はAISTに共有しAIST-IDEA ver3.3に収載されています。このような活動が活発化すれば、1次データによる算出と共に適切な原単位2次データの増加による好循環が生まれるでしょう。

 

②自動車業界での活用

自動車業界でもEUの規制強化方針から、再生プラスチックの需要が拡大しています。2000年にEUで制定された、使用済み自動車(ELV:End-of-Life Vehicles)の廃棄やリサイクルに関するELV指令の改定により2031年以降に発売される新車には再生プラスチックの使用が義務化される見込みです。豊田合成では、廃車から高品質なプラスチックを再生する新技術を開発しました[vi]。従来、自動車の廃プラスチックの再生は、不純物の混入などにより新材と同等の性能を得るのが難しいため、焼却して熱回収するか、低品位のプラスチックとして利用することが一般的であったものが、水平リサイクルできるようになるとされています。

EUではCFPの開示についても、電池等から進められようとしていますが、今後、自動車全体としても避けられないでしょう。

 

鋼材でのCFP算出と再生利用

①画像出力機器(複合機やデジタル印刷機等)

キヤノンやリコーでは複合機等に東京製綱の鉄スクラップを主原料とした電炉鋼板を利用しています。

リコーは2012年に複合機の構造体には利用が難しいとされていた亜鉛めっき鋼板に東京製鐵の電炉鋼板の利用を開始し[vii]、現在も複合機等の一部で利用を続けています。例えばRICOH IM C8010/C6510では製品本体の総鋼板材料の重量比で32%に電炉鋼板を利用しています[viii]

キヤノンは2025年に新発売する新製品の一部から電炉鋼板を利用するとしています[ix]。回収した使用済み複合機から鉄スクラップを高精度に分別し、純度を高めた鉄スクラップを東京製鐵に売却し、その東京製鐵から電炉鋼板を調達しています。

 

②グリーン購入法に沿った鉄鋼製品利用

グリーン購入法では、特定調達品目として、「原材料に鉄鋼が使用された物品」が定められ、判断の基準が次のように定められています(一部割愛)。

【判断の基準】○基準値1は、当該品目に係る判断の基準を満たし、次の要件を満たす鉄鋼が使用されていること。

①削減実績量が付されていること。※1

②原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクルにおける温室効果ガス排出量を地球温暖化係数に基づき二酸化炭素相当量に換算して算定した定量的環境情報※2が開示されていること。

 

※1 「削減実績量が付されていること」とは、一般社団法人日本鉄鋼連盟作成の「グリーンスチールに関するガイドライン」の手続に従って削減実績量が証書として付されていることをいう。

※2 定量的環境情報は、カーボンフットプリント(ISO 14067)、ライフサイクルアセスメント(ISO 14040及びISO 14044)又は経済産業省・環境省作成の「カーボンフットプリント ガイドライン」等に整合して算定したものとする。

「グリーンスチールに関するガイドライン」[x]では、マスバランス方式が前提とされています。ガイドラインには、「マスバランス方式は、企業が実施した追加性のある削減プロジェクトによる GHG 排出削減量 または CO2排出削減量(以下、「削減実績量」)を組織内でプールし、その削減量を任意の製品に配 分して削減証書と共に供給する方法である。」とされています。

グリーン購入法に入っているので、いくつかの地方自治体でグリーンスチールが使用されたオフィス家具が購入されています。しかしながら、このグリーンスチールはスクラップのリサイクル効果を除いたCradle-to-GateがGHG排出原単位での算定となっており、残念ながら今のところ本コラムのテーマの再生材料利用がCFP値削減につながりません。

 

まとめ

カーボンニュートラルに向けて再生材料の利用拡大は進められるでしょう。また、先月のコラム54で示したように再生素材利用最終製品の市場拡大は不可欠で、そのために再生素材の効果を見える化するCFPの拡大も必要です。

グリーンスチールに関しても、海外の動きも加速しており、国内でも、経済産業省の「GX推進のためのグリーン鉄研究会」、国土交通省の「建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度に関する検討会」や環境省と経産省共催の「サーキュラーエコノミーに関する産官学のパートナーシップ(CPs)」の鉄鋼WGなどでも検討されています。動向を注視し、活動が活発化することを期待します。

 


[i] AIST-IDEA サービスのご案内 | IDEA | AIST Solutions公式ホームページ

[ii] AIST-IDEA | 算定システム | AIST Solutions公式ホームページ

[iii] Microsoft Word – IDEAv3_1_ô°¹.docx

[iv] 〈EHS研究所 コラム53〉CFPおよびカーボン・オフセットの拡大とLCAの変化 | 株式会社キャリアパートナーズ

[v] 製品のCFP(カーボンフットプリント)情報 | リコーグループ 企業・IR | RICOH

[vi] 廃車由来プラスチックの水平リサイクル技術を実用化 | ニュースリリース・お知らせ | 豊田合成株式会社

[vii] 電炉鋼板の事務機への適用性検討 | Ricoh Technical Report No.38

[viii] 主な特長 / RICOH IM C8010/C6510 / 複写機/複合機 / 商品・サービス | リコー

[ix] プリンティング製品に鉄スクラップを原料とした再生鉄材料を採用開始 使用済み複合機から分別した鉄材料を鉄鋼メーカーへ供給し資源循環を促進 | キヤノングローバル

[x] グリーンスチールに関する ガイドライン

 

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