〈EHS研究所 コラム56〉クマの立場で
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〈EHS研究所 コラム56〉クマの立場で

公開日:2025.11.04

EHS 総合研究所
所長 則武祐二

クマの立場で

酷暑、豪雨、森林伐採、登山人口の増加がクマの生活圏の脅威に

 

背景

最近のクマによる被害について、人間の視点で頻繁に報道され、最近ではクマ被害対策閣僚会議まで開催されました。確かに人身被害者は2023年度同程度になり、2025年度の死亡者は全国で12人(10月30日現在)に達しました。人身被害にあわれた方にはお見舞い申し上げます。しかし安易にドングリの凶作やクマの増加を理由として駆除を進めることが解決策なのでしょうか。一方でクマの駆除に対する抗議も増えているようです。事実と異なる報道もあるように思います。またクマから見たら全く異なって見えているでしょう。根本原因はクマの増加ではなく、温暖化を含めた人間の行動で、クマによる被害とは無関係と思っている大都市圏に住んでいる方々にも責任があるでしょう。
そこで気分転換も兼ねて、熊(あえて漢字)の視点で記載しました。
報道されているデータに偏見があると感じられるものに関しては事実をお伝えします。
気楽に読んで頂ければ良いですが、最後に熊の視点で人間へのお願いを記載しましたので見て頂ければと思います。

 

クマ達の会話

最近ヒトは、クマが生活圏に現れてヒトを襲うことが増えていると言っている。」
「猟師が減ってクマが増えているとか訳のわからないことも言っている。」
「ヒト慣れしてヒトを怖がらないクマが増えたっていうけど、そんなことはなくて、クマを怖がらないヒトが増えているのが問題じゃないか。」

 

①クマは増えているか?

本当のところは、北海道のヒグマは最近減っている、本州のツキノワグマの数ははっきりしないけど、最近は増えていないだろう。戦争と杉植林とかで大幅に減ってから、その後に回復してきたけど、今は江戸時代とほとんど変わらない数になったかな。」
「猟師が高齢化とかで減って、俺たちクマを捕る人が減ってるとか言ってるけど、狩猟免許登録者は増えてる。「銃猟」登録者は減っているけど、それ以上に「わな猟」登録者は増えてる。」、
「捕まる数も増えてる。少しずつ捕まる数が増えてたけど、ドングリとかの凶作で2023年にヒトの生息域に行き過ぎたから、たくさん捕まえられた。元々ヒグマが1万頭強、ツキノワグマが数万頭しかいないのに、毎年たくさん捕まえられて、2023年はヒグマが1422頭、ツキノワグマが7854頭も捕まえられて増えるわけがない。」

 

②なぜヒトの生活圏に出るのか?

なぜクマが人の生活圏に出るかって。答えは簡単でクマの生活圏が暮らしづらくなってきたことと、ヒトの周りに食物が多くて暮らしやすそうだからだ。」「ドングリ等の凶作が原因と言われてるみたいだけど、他にも色々あるし、凶作の原因も含めて、それはすべてヒトのせいだ。」
「1つ目は気候が変わったことだ。長くて暑い夏、猛暑、短い秋、大雨と乾燥だ。ヒトはエアコンの効いたところで過ごせるし、屋根があって雨は避けられるけど、クマは避難できない。今年の2月の岩手県の森林火災では、我々の生活圏の一部が失われた。秋が短くなって短期間で冬眠準備をしなければならなくなった。」
「2つ目は森林破壊だ。ヒトは森林伐採開発っていうのか知らないけど、あちらこちらで森林を伐採して建物を建てたりメガソーラを建設している。そこでも我々の生活圏の一部が失われた。」
「3つ目は登山や観光で山に入ってくるヒトが増えたことだ。観光を含めた登山人口の増加、海外からも多いみたいだけど、森林のためにはマイナスしかない。車も増え、渋滞による排気ガス増、駐車場と道路の拡張など、クマにも自然にとってもいいことなんて何もない。」
「4つ目は少し古い話だけど、ブナやナラの天然林でクマの好物の木の実が豊富だったのを、戦後にスギとかを植林して人工林に変えてしまった。明治神宮の森みたいにブナ科の森に戻してくれたら、クマは住みやすいからヒトの生息域に出ていかなくていいんだけどね。明治神宮の森にクマが住み着いたらヒトは怒るんでしょうね。関係ない話だけど昭和天皇は明治神宮の森にはヒトの立ち入りを禁止してたんだよね。」

 

③クマによる農産物被害は少ない

「クマによる農産物の被害も報道してるみたいだけど、最近少しは増えているけど、2023年度でイノシシの1/5でシカの1/10ぐらいで少ないんだけどね。」

 

④クマからのお願い

「クマがヒトの生息域に出ていくのはやめられないし、今のままだともっと多くのクマが出ていくことになる。」
「次のことを早急にして欲しい。」
✓森林伐採開発を止めて。
✓登山や観温暖化対策を進めて気温上昇を止めて。
✓光で山に入ってくるヒトを大幅に減らして。
✓登山や観光に自動車で来るなら、せめて家の電気を再エネ電力に切り替えて、電気自動車で来て。
✓人工林を少しずつでいいから陰樹を中心とした森への遷移を進めて。
「すべてヒトがしてきたことを改めることです。見直されないならヒトを駆除するしかなくなってしまうのでよろしくお願いします。」

 

クマに関する事実

 

①猟師数

狩猟免許は、最近取得する人が増えています。狩猟免許は、「第一種銃猟」「第二種銃猟」「網猟」「わな猟」の4つに分類されます。環境省の鳥獣関係統計(1979年~2017年)によると1980年代には40万人以上が狩猟免許を保有していましたが、年々減少していき2012年に18万人となり過去最低となりました。しかし、2013年以降徐々に保有者が増加し、2017年に20万人まで回復しています。特に、「わな猟」免許の取得者が著しく増加し、2007年と比較すると10年間で倍に増加。「第一種銃猟」は10年間で3割ほど減少している。
免許所持者も近年は高齢者が減少し、30代、40代が増加しています。

図1.年代別狩猟免許所持者数の推移

出典: 環境省webサイトnenreibetu.pdf

 

②捕獲数

図2のようにヒグマもツキノワグマも捕獲数が増加しています。

図2.クマの捕獲数の推移

出典: 環境省「クマ類の生息状況、被害状況等について」

 

③クマ類の生息環境の保全・整備の施策

2024年4月に公表されたクマ被害対策パッケージでは、「クマ類の地域個体群を維持しつつ、人とクマ類のすみ分けを図ることで、クマ類による被害を抑制する。」と明記されています。5つの施策のひとつに「クマ類の生息環境の保全・整備」があり、次の施策が示されています。
・鳥獣保護区等の保護区の設置(環境省)
・針広混交林や広葉樹林への誘導、広葉樹の病害虫被害の防除(林野庁)
・絶滅のおそれのある四国の個体群の保全(環境省、林野庁)
早期に進められることを期待します。

 


[i] クマ被害対策等に関する関係閣僚会議(第1回)議事次第|内閣官房ホームページ

[ii] 02_資料2-1,2,3_令和5年(2023年)末ヒグマ個体数推定結果ほか.pdf

[iii] kuma-situation.pdf

[iv] https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort12/kuma-counterplan.pdf

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