「情報・知見におけるGiverとTaker」
環境問題は規制や社会変化が激しく、最新情報の入手と動向把握が重要。情報収集は求めるだけで成立するでしょうか。
背景
環境問題は社会の変化も規制の動きも活発です。的確で迅速な情報収集は不可欠です。インターネットの拡大とAIの活用により、昔より格段に情報収集が容易になっています。一方でオンライン会議の普及により、フランクな対話の機会は減っています。迅速に正しい情報を入手するのは容易ではありません。文字に書かれたものだけでなく、他人の意見を聞くことも重要です。しかし、人に聞きに行くばかりでは、有用な情報を入手することは困難です。
私は仕事を始めたころから、人との関係は「Give and Take」が最重要と考えてきました。本コラムでは、社外との関係と後継者育成を中心に、私の経験を記します。
Giver(ギバー)とTaker(テイカー)については、アダム・グラントの著書「GIVE & TAKE」が2013年に出版され、その中で示されています。共感できる点は多いので、深く追求したい方は購読されることをお勧めします。翻訳本の表表紙には”「与える人」こそ成功する時代”と記されています。
技術的業務の情報収集
私の担当した業務は、前任者のいない初めての業務を担当することが多く、社内の誰かに教わるということは、ほとんどありませんでした。業務は技術的なものが多く、独自に開発すること多く、社外の有識者との接点を持ち、進めました。論文検索、計測機器等の設備メーカーおよび学会等への参加などにより情報収集しました。専門家の意見を求めるには学会が適しており、そこで専門家との接点を持ち、こちら側の進めていることも明らかにし、意見を求めることが、先方との知見の共有化ができ効果的でした。
外部組織との協働
社外との人間関係の構築には、社団法人や協働イニシアティブなどの外部組織への参加が効果的です。しかし参加の判断として、よく聞くのが「メリット」「デメリット」の比較や「費用対効果」による評価です。残念ながら外部組織での「メリット」も「効果」も自らが行動しないと多くは得られません。消極的な方、本コラムの趣旨で言うと「テイカー」の方は、ほとんど不参加や退会を選ぶことになってしまいます。
人の意見は、意見交換することによって得られます。そのためには自らの意見を持ち、表明することが望まれます。また、自らの考え方に対して他社のご意見を聞ければ見識を高めることができます。
私はグリーン購入ネットワーク(GPN)や一般社団法人 日本気候リーダーズ・パートナーシップ( JCLP)等に関与するほか、国の委員会、他国での検討会やISO等の国際標準の委員会にも多く参加し、海外の方も含めて、見識を高めることができました。
後継者育成
後継者の選定と育成は多くの組織にとって課題です。私も後継者育成に成功したわけではありませんが、部下に自分ができなかった海外経験を積ませるなど考えて進めてきたつもりです。
前述のように私は上司の理解もあり、多くの学会、外部組織への協働などに参加することができ、人間関係と見識を高めることができました。しかし、最近は企業も個人も、直接的な結果を求める傾向が強まっているように思います。良いギバーであるためには、見識を高める必要があります。すぐ得られる結果だけでなく、見識を高めるための挑戦を本人も上司も組織としても評価し実践することが望まれます。
組織の能力向上と蛸壺化からの脱却
「聞かれたことだけに答える」「言われたことだけ行う」「聞きたいことだけ聞く」「してもらいたいことだけ伝える」「教えられていないことはできない」「自分ができないことはできない」
すべて「Give and Take」ができない方の発言・行動です。
「聞かれたことだけに答える」、これは、答える前に聞く側の背景を十分知れば回答は変わってきます。結果として期待以上の効果を生み、成果も大きくなるでしょう。「言われたことだけ行う」、これも同様でしょう。ただ、どちらも聞く側、依頼側も良いテイカーではありません。より適切な回答や行動を期待するなら、面倒でもお互いに深く理解を高めることで良い結果を得ることができます。お互いが良いギバーであり、良いテイカーになることが望ましいでしょう。
「教えられていないことはできない」「自分ができないことはできない」社員がこの考えだと、
企業は新しいことはどのように実現するのでしょうか。最近増えていると感じるのはコンサルティングへの依頼です。でも、コンサルティングはなぜできるのでしょうか。また、社員の能力は向上するでしょうか。時間と工数面で頼るのは仕方ないとしても、知見レベルでは個人および組織の能力向上が望まれます。
私の経験事例では、製品から排出される物質の評価を担当していて、製品の設計者が評価対象機器を持ち込んできます。エアフィルターの設置などで一度は排出基準をクリアしても、その後、機内温度基準がクリアできず、排気ファンを増設して、排出基準をクリアできなくなることがありました。再度、設計部門が持ち帰り、エアフィルターの追加などが検討されます。さらにはファン増設による騒音基準超過が起きるなど、排出物設計、熱設計、静音設計の3つの設計担当者と3つの評価部門を渡り歩くことになっていました。そこで、私の所で設計者と共に製品を分解し、解析した結果。排出物設計、熱設計、静音設計および気流設計に問題があることが判りました。その後、次のことなどを私の部署に集約して実施することにしました。
♦ 気流設計(熱設計を含む)講座開設
♦ 騒音測定技術講座開設
♦ 排出物シミュレーションアプリ開発
♦ 騒音測定システム導入
♦ 気流評価設備導入
かなり高額の設備投資を伴いましたが、予算を確保し実現することができました。効果として製品性能の向上、製品コスト削減、製品設計工数と製品開発期間の短縮に貢献することができました。この間、多くの方々の間で「Give and Take」が成立しました。誰のためのGiveとかではなく、すべての人が自らおよび他者に対するGiveにより、多くの方と組織がTakeすることができたのです。自部署ではできないなどと考えていたら実現は不可能だったでしょう。
まとめ
前述のアダム・グラントの著書「GIVE & TAKE」の中では、人の行動スタイルを大きく次の3つに分類しています。
・ Giver(ギバー):先に与える人、他者の利益を考える
・ Taker(テイカー):自分の利益を最優先する
・ Matcher(マッチャー):損得のバランスを取る人
この点については異論があります。
損得のバランスを取るのではなく、良いギバーであるためには、良いテイカーである必要がありますし、良いテイカーであるためには、良いギバーでなければならないと考えています。
お互いのために、できるだけ情報を入手・理解し、情報を出し惜しみせず共有すること。行動の範囲に自ら過剰な制約をかけないこと。
カーボンニュートラルに関して取り組んでおられる方々も、周りを見ないと無駄な工数と費用を掛ける可能性があります。CE、カーボンニュートラル製品の開発・販売、カーボンニュートラル製品の調達、GHG排出削減など異なる方担当する場合が情報交換していないと無駄な費用と作業が発生します。次回コラムでは、その点に関して少し具体的にお示ししたいと思います。
[i] 「GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代」三笠書房
