大雨被害と自治体の気候変動適応計画
背景
今年は8月以降に全国で大雨被害が起きています。要因の大きなものとして地球温暖化があり、地球温暖化対策推進法により地方自治体は実行計画の策定が義務付けられています。さらに気候変動適応法により、地方自治体には、地域気候変動適応計画の策定が努力義務として推奨されています。今年8月の大雨被害は想定されていたのでしょうか。想定されていたとしたら適応する計画はあったのでしょうか。その計画は気候変動への適応と位置付けられ、適切に被害を防止できるものなのでしょうか。今コラムでは、被害の大きかった印旛沼のある千葉県佐倉市について確認してみました。
大雨被害の想定(ハザードマップ)
佐倉市では8月に床上浸水100棟、床下浸水100棟、死者2名(令和8年8月千葉豪雨 被害状況マップによる)が発生しています。図1の佐倉市防災ハザードマップ では、外水浸水深ランクが0.5m以上3m未満および3m以上5m未満さらに5m以上10m未満の地域も存在します。ウェザーニュースではランク地域外でも浸水しているところがあるものの、多くが想定地域内で浸水したとされています。浸水した深さも想定を超えたものではありませんでした。浸水した多くは想定の範囲内で、想定外のことが起きたとは言えないものでした。

図1.佐倉市防災ハザードマップの一部
地域気候変動適応計画において(洪水に関する部分)
佐倉市では気候変動適応法第12条に基づく、佐倉市の地域気候変動適応計画として佐倉市気候変動対策行動計画を2024年に策定しています。また、千葉県でも2016年に策定した「千葉県地球温暖化対策実行計画」を2023年に改定し、地域気候変動適応計画として「気候変動影響への適応策」を策定しています。
佐倉市気候変動対策行動計画に示された「策定の目的」「現在の状況と将来予測される影響」「適応策」について水災害に関する部分を示します。
①策定の目的
「印旛沼を擁する佐倉市では、流入河川の氾濫がたびたび発生するなど、洪水調整機能の強化が地域課題の一つとなっています。近年では、地球温暖化等の影響により、ゲリラ豪雨の頻発化など、内水氾濫のリスクも増大しています。」と記されています。
気候変動への対応を喫緊の課題とし、「第5次佐倉市総合計画中期基本計画」の重点施策Ⅱ「気候変動への対応」に位置付け、中期基本計画期間内(2024年度~2027年度)で、重点的・分野横断的に取り組んでいくこととされています。
②佐倉市の現在の状況と将来予測される影響
1時間降水量50㎜以上の大雨の年間発生回数は増加傾向が現れています。最近10年間の平均年間発生回数は、統計期間の最初の10年間と比べて約3.4倍に増加しています。

図2.1時間降水量50 ㎜以上の年間発生回数の経年変化(千葉県)
佐倉市において、「気候変動によると考えられる影響が既に生じている、あるいは佐倉市の地域特性を踏まえて重要と考えられる分野・項目として「洪水・内水」は、「特に重大な影響が認められる」、「緊急性が高い」、「確信度は高い」」とされています。
自然災害についての現在の状況と将来予測される影響は、表1のように記載されています。
表1.自然災害に対する現在の状況と将来予測される影響(佐倉市気候変動対策行動計画)
| 項目 | 現在の状況 | 将来予測される影響 |
|---|---|---|
| 洪水 | 大雨事象発生頻度が経年的に増加傾向で、1時間降水量50㎜以上の発生回数の増加や、治水施設の整備水準を上回る降雨による被害の発生が確認されています。 | 洪水氾濫を起こしうる大雨事象が、国内の代表的な河川流域において今世紀末には有意に増加することが予測されています。 また、降雨量の増加割合に応じて、洪水ピーク流量、氾濫発生確率がともに増幅することが示されています。水害の起こりやすさは有意に増すと報告されています。 |
| 内水 | 内水被害をもたらす大雨事象は、発生頻度が経年的に増加傾向にあり、短期間に集中する降雨の強度は有意に増大しています。 | 大雨事象の増加が懸念されます。 |
③適応策(佐倉市気候変動対策行動計画)
「特に重大な影響が認められる」、「緊急性が高い」とされていますが、自然災害に対する主な対策は下記となっています。
●住民の洪水に対する意識向上を図るための取組を推進します。
●佐倉市防災ハザードマップやマイ・タイムラインの活用を周知・啓発します。
●防災情報をプッシュ型で通知する対象者を増やします。
●調整池の維持・管理、田んぼダムに協力していただける農家への支援を行います。
●生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)の検証・実証を進めます。
●鹿島川・高崎川等の治水対策を、千葉県と連携を図りながら推進します。
●洪水が発生する恐れがある場合、(独)水資源機構や千葉県などと連携し、印旛沼の計画的な予備排水を行います。
●排水ポンプ施設の計画的な更新を行います。
●雨水施設の整備・改修を進めます。
●市民に対し雨水貯留タンク導入を支援します。
適応策として十分なものでしょうか。
また、基本施策に対する指標は表2のものとなっています。
表2.自然災害に対する基本施策の主な指標(佐倉市気候変動対策行動計画)
| 指標名 | 現状値(2022年度) | 目標値(2027年度) |
|---|---|---|
| 災害に対して備えのある市民の割合 | 87.8% | 92.4% |
| 自主防災組織の組織率 | 46% | 60% |
| 田んぼダムに取り組む水田面積 | 30ha | 40ha |
| 排水ポンプ施設の更新数 | 2基 | 18基(累計) |
| 雨水貯留タンク補助件数 | 11件 | 60件(累計) |
課題
今回確認しました佐倉市以外も、気候変動が顕在化しつつあることにより、多くの地方公共団体は適切な適応策を実施するには予算的に厳しいと思います。地域気候変動適応計画は環境省のひな形を基に作成されていることが多いと思いますが、適応策については環境を担当する部署ではなく、湖沼、下水道や道路等を管理する部署において作成することが必要ではないでしょうか。
洪水等が発生した際に水害に対して自治体等からの支援は多くないようです。住宅の火災保険の水災補償の付帯率は全国平均で6割程度です。住民の方々は住宅の購入や新築される場合も含めて、ハザードマップを確認し、自己責任としての準備が必要なのではないでしょうか。
[i] 令和8年千葉豪雨被害状況MAP – 泉北のまちと暮らしを考える財団
[ii] 佐倉市防災ハザードマップ(Web版)
[iii] 気候変動影響への適応策
