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化学物質管理者講習とは?

化学物質管理者講習とは?

公開日:2024.03.22

厚生労働省は、化学物質による労働災害を防止するため、労働安全衛生規則等の一部を改正いたしました。(令和4年5月31日公布:労働安全規則の一部を改正する省令)

当改正により2024年4月から、化学物質の自律的な管理を目指し体制整備をするべく、危険性・有害性の認められる化学物質(リスクアセスメント対象物)を製造・取り扱い・譲渡提供する全ての事業場において、化学物質管理者を選任することが義務化されることとなりました。

化学物質管理者とは

化学物質管理者とは

「化学物質管理者」とは、事業場における化学物質の管理に係る技術的事項を管理する者をいいます。化学物質管理者は、危険性・有害性のある化学物質を製造・取扱・譲渡提供する事業場において、リスクアセスメントの実施や必要な安全衛生措置の講じることができる能力を有する者として、事業場の責任において選任されるものです。

化学物質管理者の主な職務

化学物質管理者の職務の概要は、事業場における化学物質の管理に係る技術的事項を管理することです。

化学物質管理者の職務をさらに具体的に記載すると以下の通りとなります
①(製造事業者の場合)SDS交付の際、ラベル表示及び SDSの内容の適切性の確認等
②リスクアセスメントの推進並びに実施
③ばく露防止措置の選択及び実施
④化学物質による労働災害が発生した場合の対応と労働災害が発生した場合を想定した訓練内容及び計画
⑤上記の記録の作成と保存
⑥リスクアセスメント結果等、化学物質に関する労働者への周知、教育

いずれの項目においても、化学物質による労働災害発生防止を適切に進めるうえで必要不可欠な職務です。化学物質の有害性についての知識など、専門知識が欠かせないことはご理解いただけるでしょう。

今回の法改正について

選任義務化

今回の法改正で定められた化学物質の自律的な管理への移行促進で、
「化学物質管理者」の選任が企業に対して義務付けられることとなりました。

法改正の背景

現状、化学物質による休業4日以上の労働災害の内約8割が、規制対象外の物質によるものとなっています。

その原因の一つとして、労働災害防止を目的とした措置として規定されている物質の数が限られており、事業者は規制されている物質への対策に注力することでそれ以外の物質への対策が十分ではないこと、あるいは危険・有害性が不明であるが措置など規定されていない物質に変更して使用していることが指摘されています。

化学物質の管理に係る課題

当然のことながら、規制されていない物質は無害ではありません。ただ有害性が不明なだけです。国が定める管理のみに従うのではなく、企業・事業場ごとの「自律的な管理体制が整っていないこと」が化学物質の管理に係る現在の大きな課題ともいえます。

このような現状に鑑みて、安衛法57条の3でリスクアセスメント等が義務付けられている危険性・有害性のある化学物質(以下、「リスクアセスメント対象物」)を取り扱う全ての事業場ではその規模にかかわらず「化学物質管理者」を選任することが義務付けられたのです。

選任について

リスクアセスメント対象物を製造する事業場においては、選任すべき事由が発生した日から14日以内に、厚生労働大臣が定める化学物質の管理に関する専門的講習を修了した者等のうちから選任しなければなりません(改正安衛則第12条の5第3項。一部表現を修正)。
また、リスクアセスメント対象物を取り扱う事業所においても、化学物質に関する技術的事項の管理を担当するため、専門的講習を修了した者から選任することが厚生労働省から推奨されています。

選任義務

化学物質管理者は、リスクアセスメント対象物を扱う全ての事業場(事業場の規模にかかわらず)で選任されなければならなりません。ただし、一般消費者の生活の用に供される製品(例:医薬・医薬部外品、化粧品、農薬、粉状または粒状にならない製品、密封されている製品、食品など)のみを扱う事業場は選任の対象外とされています(告示第4 1(1)オ)。

選任の注意事項

事業者は化学物質管理者を選任したとき、当該化学物質管理者の氏名を事業場に掲示すること等により関係労働者に周知しなければなりません(改正安衛則12条の5第5項)。

化学物質管理者を複数人選任し、業務を分担させることもできます。
化学物質管理者は事業場ごとに選任する必要があります。
「事業場」とは、工場、店舗、営業所などを指し、原則として同一の場所にあるものは一つの事業場として捉えられます(昭和47年9月18日発基第91号)。
したがって、化学物質管理者を個別の作業現場ごとに選任する必要はありません。

リスクアセスメント

リスクアセスメントとは

リスクアセスメントとは、化学物質の危険性や有害性を認識し、事業者において労働者への危険または健康障害を生じるおそれの程度を見積もり、リスクの低減対策を検討する一連のプロセスです。化学物質の危険性・有害性によって起こり得る労働災害を未然に防止するため、化学物質管理者は各事業所において「リスクアセスメント」を行うことが求められます。

リスクアセスメントのステップ

① 化学物質などによる危険性または有害性の特定
リスクアセスメント等の対象業務を洗い出した上で、 安全データシート(SDS)に記載されているGHS分類などに即して危険性または有害性を特定します。
② リスクの見積もり
対象化学物質の使用量やその作業内容から、危険性や健康障害の発生可能性と重篤度、または有害性の程度等を考慮して、化学物質に関するリスクを見積もります。
③ リスク低減措置の内容の検討
見積もったリスクに応じて、労働者の危険または健康障害を防止するための措置の内容を検討します。
④ リスク低減措置の実施
策定したリスク低減措置を速やかに実施するよう努めます。
⑤ リスクアセスメント結果の労働者への周知
化学物質の名称、対象業務の内容、特定した危険性・有害性およびそのリスク、ならびに実施するリスク低減措置の内容を、労働者に対して周知します。
化学物質責任者は、統括安全衛生管理者などによる統括管理の下で、リスクアセスメントにおける技術的業務を実施します。

リスクアセスメント対象物とは

「リスクアセスメント対象物」とは、法令に基づく「ラベル表示対象物」(労働安全衛生法施行令第18条)、および安全データシート(SDS)による「通知対象物」(労働安全衛生法第57条の2第1項)をいいます。
また、安衛法57条の3でリスクアセスメント等が義務付けられている危険性・有害性のある化学物質のことを指します。

化学物質管理者講習について

受講対象者

法改正以降で「化学物質管理者」として選任される予定のある方が受講対象です。

化学物質管理者は、業界や業種に関係なく、リスクアセスメント対象物の製造・取扱・譲渡提供を行う全ての事業場で選任が必要です。
リスクアセスメント対象物の製造事業場において、化学物質管理者として選任される予定のある方は、専門的講習の受講が義務付けられています。
リスクアセスメント対象物の取扱事業場において、化学物質管理者として選任される予定のある方にも専門的講習の受講が推奨されています。

受講資格

化学物質管理者講習の受講資格に関しては特に定められていません。

実施内容

学科講習では、化学物質の危険性や有害性に関する表示・調査の方法をはじめ、現場で従事する際に必要となる基礎的な知識を学びます。
化学物質は人体に影響を及ぼす健康被害につながる恐れがあるため、講習を通して必要な知識を身につけることが大切です。

取扱事業場では6時間、製造事業場では12時間の講習内容で実施されるため、自身の職場環境にあわせて適切なカリキュラムで受講を済ませましょう。
製造事業場向けの場合、3時間の実習が設けられています。
事業場の種類によって講習のカリキュラムが異なるため、受講する前に必ず情報を確認しておきましょう。当該講習は各種団体が開催しています。

その他

今後の化学物質管理に関する懸念

化学物質特有の専門的な職務遂行には、専門的な知識が必要とされます。したがって、個々の化学物質管理者が、その職務を自らで全て対応することは容易ではありません。
万が一、リスクアセスメントの実施を十分にしていなかった事業場では、そもそもの化学物質の危険性や有害性を労働者に伝え、労働者と共に環境に合っているリスクアセスメントおよび対策について改めて考える必要があります。

また、化学物質管理者に期待される役割を果たすためには、一つの選択肢として専門家に物質の作業環境濃度やばく露濃度の測定を委託することや、リスク低減対策について労働衛生コンサルタントに相談するなど、外部の専門家を活用することも出てくると思われます。
このような判断を行うにも、化学物質管理者としての知識・素養が一層重要なものになるとされています。

まずは、自社で取り扱われている塗料・希釈液・洗浄液などリスクアセスメント対象物は含まれていないか再度確認されることを推奨いたします。
法改正の趣旨や化学物質管理の概要について理解したうえで、リスクアセスメント対象物の有無や、それ以外でも人体に有害な化学物質が含まれていないかを把握することが重要です。

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