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EHS監査とは?環境・衛生・安全管理の必要性やESGとの違いを解説

EHS監査とは?環境・衛生・安全管理の必要性やESGとの違いを解説

公開日:2024.03.25

企業にとってリスク管理は重要な課題の1つです。総合的なリスク管理に取り組む上で重要な「EHS」という概念をご存知でしょうか。欧米ではグローバル企業を中心に比較的古くから知られている概念ですが、日本においてはまだ十分に浸透していない面があります。

今回は、EHSの概要や注目されている背景、EHSを構成する要素についてわかりやすく解説します。EHSの管理体制を客観的にチェックする「EHS監査」を活用するメリットとあわせて見ていきましょう。

EHSとは

はじめに、EHSとはどのような概念かを整理しておきます。EHSと共通点も多いESGとの違いとともに押さえておきましょう。

EHSとは「環境及び労働安全衛生」のこと

EHSはEnvironment(環境)・Health(衛生)・Safety(安全)の頭文字を取った言葉です。日本においては「環境及び労働安全衛生」と訳されています。EHSまたはHSEと呼ばれることもありますが、いずれも同じ意味と捉えてください。

環境・衛星・安全に関する企業の取り組みは以前から行われてきたものの、各プロセスはそれぞれ独立したものとして見なされる傾向がありました。また、企業にとって法令や規制に抵触しないよう遵守すべきものとして捉えられており、業績や事業価値の向上に直結する取り組みとは見なされていなかったのです。近年では、EHSの適切な管理はリスク回避に寄与するだけでなく、事業の価値を高める取り組みとしても注目されつつあります。

EHS管理とは

EHS管理とは、労働者・職場・および環境に害をおよぼさないようにするための管理フレームワークのことです。EHS管理は次の3つの要素で構成されています。

  • 環境:温室効果ガスの排出を削減し、化学物質の流出を防止すること
  • 衛生:病原体・放射線・危険な化学物質への曝露から労働者・顧客・地域を守ること
  • 安全:機械や危険物質から受ける身体的傷害から労働者を守ること

いずれも企業がリスクを適切に管理し、持続可能な経営を実現する上で欠かせない要素といえます。これらの一連の取り組みをそれぞれ独立した動きと捉えるのではなく、発生源が同一のリスクと捉え、より本質的な対策を講じることがEHS管理の主な目的です。

ESGとの違い

ESGは、Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス)の頭文字を取った言葉です。主に投資家の視点から見た場合に、長期的な成長が可能な地盤が整っている企業かどうかを判断する要素として注目されています。ESGはEHSと比べて、企業を外部から見た場合の取り組みを表していると捉えてください。

EHSとESGは相互に深く関わっています。環境や労働安全衛生の管理を適切に行うには、自社の労働環境を客観的に評価するESGの視点が欠かせないからです。EHSを実現するためにも、ESGの視点を意識していく必要があります。

EHSが注目されている背景

EHSが日本において注目されつつある背景には、主に2つの要素があります。産業・経済のグローバル化に伴い、次に挙げる要素の重要度が高まっているのです。

グローバル企業のCSR調達

日本の企業にとって、海外企業が重要な顧客あるいは取引先となっているケースは少なくありません。近年、国際的な潮流としてCSR(企業の社会的責任)を調達基準として重視するグローバル企業が増えつつあります。こうした企業の多くは、自社だけでなくサプライヤーに対してもCSR調達基準を定め、厳格な監査を実施しているのです。

CSR調達基準には、EHSをはじめ企業としての倫理やマネジメントシステムなどが含まれています。グローバル企業との取引を継続していくには、EHSの適切な管理が欠かせません。

ISO 14001、ISO 45001の共通化

環境マネジメントシステムに関する国際規格であるISO 14001に加え、2018年3月には労働安全衛生マネジメントシステムの国際規格としてISO 45001が策定されました。これにより、共通テンプレートにもとづく統合マネジメントシステムの構築・運用がしやすくなったのです。

環境マネジメントシステムと労働安全衛生マネジメントシステムの重複を避けるためにも、EHS統合マネジメントシステムが注目されつつあります。より合理的かつ適切な管理を行うためのフレームワークとして、EHSの重要度が増しているのです。

EHSの3要素

企業がEHS管理を適切に行うには、ガバナンス・リスクマネジメント・コンプライアンスの3要素をとくに重視する必要があります。それぞれの要素で求められている取り組みについて見ていきましょう。

ガバナンス

ガバナンスの観点においては、以前から労働安全衛生法にもとづく管理が行われてきたはずです。一方で、部門や事業所単位での安全確保や危険回避が重視されてきたケースも少なくありません。

EHSにおいて重視されているのは、企業全体としての取り組みです。部門や事業所任せにするのではなく、組織として労働安全衛生を実現していくための仕組みづくりが求められています。企業全体、あるいはグループ全体でのガバナンスを追求する重要性が増しているのです。

リスクマネジメント

企業に求められるリスクマネジメントは多岐にわたりますが、EHSにおいてとくに重視されるのは潜在的な悪影響を回避・低減することです。すでに顕在化しているリスクに留まらず、今後発生・露呈する可能性のあるリスクに関しても想定しておく必要があります。

たとえば、災害への備えやサイバーセキュリティ対策など、現状は顕在化していないものの将来的に重大な被害をもたらす可能性のあるリスクについて、対策や防止策を講じているかどうかが重要です。マルウェア対策がアップデートされていなければ、サプライチェーン全体にマルウェアを拡散させる原因にもなりかねません。こうした潜在的なリスクにも適切に対応していくことが求められているのです。

コンプライアンス

EHSの根底にあるのは、法令遵守を重要視するスタンスです。直接的・間接的に法令に抵触する行為がなされていないか、顕在的・潜在的リスクの両面から注視していかなくてはなりません。業界ごとのCSR基準に関しても、基本的には法令遵守がベースとなっています。EHSを新しい概念として認識するのではなく、以前から重視されているコンプライアンスの文脈で捉えることが大切です。

EHS監査を活用するメリット

自社のEHS管理が適切に行われているかを確認し、改善すべき点を把握する方法として、EHS監査の活用が挙げられます。EHS監査を活用する主なメリットは次のとおりです。

自社のEHS管理体制を客観的にチェックできる

EHS監査を実施する総合監査センターでは、法令に関する専門知識を備えたスペシャリストによる監査を実施しています。自社のEHS管理体制が適切であるか、不備や不足がないかを客観的にチェックできるため、リスクの見落としを防げるのです。

自社内で長年にわたり続けられてきた業務プロセスやルールを、客観的な視点から点検するのは容易ではありません。ありふれた日常業務の中に重大なリスクが潜んでいるケースが少なくないからです。専門家による第三者のチェックを受けることにより、先入観や思い込みによるリスクの見落としを防げることは、EHS監査を活用する大きなメリットといえます。

管理体制の統合により、リスクの対策への効率化を推進できる

以前から環境・衛生・安全の管理を重視し、具体的な取り組みを進めてきた企業は決して少なくないはずです。一方で、これらを一体的に管理し、管理体制を統合できている企業はまだ少数に留まっているのではないでしょうか。

ISO 14001、ISO 45001さらには事業継続マネジメントシステムISO22301などを適切に運用するには、内部監査やマネジメントレビューのほか、外部審査を実施する必要があります。一方で、これらを別々の取り組みとして実施するのは労力・コストの面から得策とはいえません。EHS監査は、環境・衛生・安全の管理の一体化を推進し、リスク対策を効率的かつ効果的に実施していく上で重要な契機となるでしょう。

持続可能なEHSは、労働条件と業績を向上させる

EHS管理を一時的な取り組みと捉えるのではなく、持続可能な取り組みとしていくことは、長期的な視点で捉えた場合に労働条件の改善や業績の向上にもつながります。インシデントにつながる要因を放置していると、万が一の事態が生じた際に正常な事業運営や企業としての存在を危ういものにする可能性もあるのです。こうした要因を排除し、安全性を高める取り組みを積極的に推進することが、安心して働ける・事業に専念できる環境の構築を実現する上で欠かせないのです。持続可能なEHSを推進するためにも、スペシャリストの視点によるEHS監査は有効な対策といえます。

日本国内だけでなく世界各国のEHS管理基準とも照合できる

EHS管理に求められているのは、日本の法令遵守や業界内のルール遵守だけではありません。グローバル化するサプライチェーンにおいては、海外の法令などへの対応が必須となりつつあるからです。

EHS監査においては、世界各国のEHS管理基準を照合した上で総合的な観点からリスク判定を行います。海外法令への対応が可能になることは、EHS監査を活用するメリットといえるでしょう。

EHSへの対応が遅れるデメリット

EHSへの対応が遅れた場合、企業はどのようなデメリットを被る恐れがあるのでしょうか。近い将来起こり得る主なリスクについて解説します。

事業の継続が困難になるリスクがある

環境・衛生・安全への対策が不十分なまま放置されているのは、リスクに対して無防備な状況といえます。インシデントの発生が重大な事故や被害の拡大へとつながり、生産工場の操業停止などに追い込まれる可能性も否定できません。こうした事態が発生すれば、正常な事業運営が継続できない状況に陥る恐れも十分にあるのです。

EHS管理を適切に行うことは、事業の安定的な運営と持続可能な経営を実現する上で欠かせない要素といえます。取り返しのつかない状況に陥ることのないよう、EHSへの対応を早急に進めておくことが大切です。

グローバル化するサプライチェーンでの優位性喪失

サプライチェーンが急速にグローバル化しつつある現代において、CRS調達基準を満たさないことは重大なリスクとなり得ます。サプライチェーンから排除されてしまい、重要な取引先を失う事態にもつながりかねないからです。

EHSへの対応は、グローバルビジネスの潮流に後れを取らないための方策ともいえます。これまで問題なく取引していたからといって、今後も同じ状況が続くとは限りません。グローバル化するサプライチェーンでの優位性を喪失しないためにも、EHSへの取り組みを強化していくことが非常に重要です。

まとめ

EHSはグローバルビジネスの潮流において、非常に重要な取り組みとなっています。環境・衛生・安全を一体的に管理していくことは、安定的かつ持続可能な経営を実現していく上で欠かせない視点の1つとなっているのです。

しかしながら、EHSは日本において比較的新しい概念であり、具体的な取り組みや対策についてはこれから進める予定の事業者様も多いことが想定されます。EHSへの対応を適切に進めたい、今後強化していきたいとお考えの事業者様は、ぜひ「総合監査センター」にご相談ください。

EHS総合研究所

【 EHS監査・廃掃法監査 】

クライアントのニーズに応じた環境及び安全衛生法令に関する情報提供、順法監査及び管理体制の構築支援をし、企業のEHS管理をサポートします。

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