〈EHS研究所 コラム51〉SBTiの基準改定なよる影響は?
公開日:2025.06.10
SBTiの基準改定なよる影響は?
SBTiの新基準のドラフトが公表され、パブリックコメントが募集されています。
大幅な改訂なので、そのまま改訂されれば中小企業にも影響するでしょう。
背景
2025年3月19日に「科学的根拠に基づいた目標イニシアチブ(SBTi)」がコーポレートネットゼロ基準(CNZS: Corporate Net-Zero Standard)の改訂案を公開しました。今回は過去2回の改定と異なり、今回公開されたドラフト[i]は全文で133頁渡るもので大きな改訂案が示されています。
SBTiは英国の慈善団体として設⽴され、子会社であるSBTi Services LimitedがSBTiの目標検証サービスを運営しています。創設パートナーは、CDP、国連グローバル•コンパクト、We Mean Business 連合、世界資源研究所(WRI)、世界⾃然保護基金(WWF)です。
日本企業のSBT認定企業(含む)コミット企業)は1600社超(2025年4月時点)で世界一です。多くの中小企業も認定されており、今後の拡大を考えると日本企業にとっての影響は大きいと思われます。
主な改定点
ドラフト内に記載された、今回のバージョン2改訂ドラフトと現在のバージョン1.2との比較表(一部割愛)を示しました。
今回のドラフト(バージョン2.0)とバージョン 1.2 の比較
トピック | CNZSバージョン1.2 | CNZSバージョン2.0(公開ドラフト) |
---|---|---|
検証モデル | 事前目標の野心度は評価されるが、目標の進捗状況評価は行われない | 事前目標の野心度評価と進捗状況評価を実施し、サイクル全体をカバー |
基準年のパフォーマンス評価のデータ保証 | 非該当 | カテゴリーAの企業は基準年温室効果ガス排出インベントリについて第三者による保証を取得する必要がある |
スコープ別に集計された目標 | スコープ1、2、3の目標を統合することができる | 各スコープごとに個別の目標が必要 |
スコープ2目標設定 | 立地基準または市場基準の目標設定が必須。再生可能電力による目標設定も選択肢に含まれる。許容される緩和措置は未定義。 | ロケーションベースの目標と、市場ベースまたはゼロカーボン電力目標の両方を設定することが可能な場合は、ゼロカーボンエネルギーまたは高信頼性電力市場商品を同一市場で購入・消費し、直接調達すること。ゼロカーボン電力の調達が不可能な場合は、暫定措置として他の電力系統への供給を行うこと |
スコープ3目標設定 | 全企業に対する最低境界の決定(短期的には67%、長期的には90%) | 企業にとって最も関連性の高い排出源に焦点を当てた境界 |
排出削減目標に重点 | 非排出指標と目標の強調 | |
許容される緩和措置は定義されていない | さまざまな流通管理モデルに応じて目標に対する進捗を実証する方法の明確化 | |
継続的な排出の影響への対処 バリューチェーン緩和を超えて |
バリューチェーン外での緩和策を支援する企業への推奨 | バリューチェーン外での排出削減を支援する企業を認定することにより、より強力なインセンティブを提供 |
目標に対する進捗の実証 | 目標に対する進捗の実証に関するガイダンスの欠如 | 排出源、活動蓄積まで追跡可能な介入、または一部の限定されたケースでは暫定的な間接緩和策を通じて、目標に対する進捗状況を実証する |
目標に対する進捗の判定 | 進捗状況を評価する方法が定義されていないまま、目標に対する進捗状況を毎年報告する必要がある | 企業は、事前に定義された一連のアルゴリズムに従って、目標サイクルの終了時に進捗状況を評価することが求められる。 |
目標の更新 | 5年ごとに目標を見直し、必要に応じて再検証する必要があるが、新しい目標を設定する必要はない。 | 企業は各目標サイクルの終了時に新たな目標を設定する必要がある |
出典: SBTi 企業ネットゼロ基準(バージョン2.0 ドラフト)をもとに作成
上記比較表には記載されていませんが、調達や販売する製品に関して目標に該当しない指標に関しての記述も見られます。例えば次のようなものが示されています。
・地球規模の気候目標に沿った事業体や活動に向けられた調達の割合
・ネットゼロに適合した自社の製品やサービスから得られる収益の割合
また、「業務およびバリュー チェーン内での排出量を削減するために科学的根拠に基づく目標を設定するだけでなく、ネットゼロへの変⾰を進める際に⼤気中に放出される排出量の影響に対処する責任を負う企業を評価する」なども記載されています。
新基準への移行スケジュール
SBTi企業ネットゼロ基準バージョン2.0への移行予定はつぎのように記載されています。
(1)2025年および2026年に新たな短期目標を設定する企業
・企業は、2025 年と 2026 年に引き続き、基準バージョン2 および短期基準バージョン 5.2 に基づいて、2030 年に向けた短期目標を設定することができます。2027年以降は、企業はバージョン2.0を用いて新たな短期および長期目標を設定することになります。
・基準バージョン2および短期基準バージョン5.2に基づき2025年と2026年に設定された短期目標は、5年間または2030年末のいずれか早い方まで有効です。この期間の短期目標を検証する企業は、遅くとも2030年末までに、バージョン2を用いて次の期間の短期目標を策定する必要があります。
・SBTiは、2025年と2026年に目標が承認された企業に対し、スコープ3目標をバージョン2に準拠させるための道筋を提供します。この移行経路により、円滑なプロセスが確保され、既に完了した作業との重複を防ぐことができます。詳細は近日中に発表予定です。
(2)既に短期目標を設定している企業
・既存の短期目標は、2030年または目標期間の終了のいずれか早い方まで有効となる予定です。SBTiは、既に短期目標を承認済みの企業に対する更新プロセスの詳細について、今年後半に予定されている第2回パブリックコメントで発表する予定です。
今後の改定までのスケジュール
下記のスケジュールで改訂が進められるとされています。
①パブリックコメント受付
2025年6月1日までオンラインアンケートで行われています。
②フィードバック
パブリックコメント期間終了後、SBTi技術部門が、コメントを評価し、改善に必要な調整や明確化の箇所を特定。
③2回目のパブリックコメント
フィードバックの概要とその対応方法は、透明性確保のため公開されます。
まとめ
このコラムの発行時点ではハブリックコメントの募集は終了しています。世界中でどのようなコメントが出され、どのようなフィードバックが行われるかは注目されるところです。
今回の改訂ドラフトには、企業がGHG排出について、少なくとも独⽴した第三者検証機関の保証を取得することが新たな要件として導入されています。これは、CSRD[ii]などの新たな枠組みやHLEG[iii]の勧告とも整合されており、どのように扱われるかは今後重要となります。
以上
[i] CNZS V2.0_Consultation Draft with Narrative
[ii] CSRD:Corporate Sustainability Reporting Directive(企業サステナビリティ報告指令)
[iii] HLEG: 国連High Level Expert Group(サステナブル金融に関するハイレベル専門家グループ)