〈EHS研究所 コラム53〉CFPおよびカーボン・オフセットの拡大とLCAの変化
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〈EHS研究所 コラム53〉CFPおよびカーボン・オフセットの拡大とLCAの変化

公開日:2025.08.08

EHS 総合研究所
所長 則武祐二

CFPおよびカーボン・オフセットの拡大とLCAの変化

カーボンニュートラルの実現に向けて、カーボンフットプリント(CFP)および

カーボン・オフセットの拡大、ライフサイクルアセスメント(LCA)にも変化

 
 
背景

日本の今夏は猛暑になっていますが、欧州では以前からもっと過酷な状況にあります。気候変動に関しての危機感も強く、環境政策も着実に進められています。EU電池規則により電気自動車(EV)用バッテリーにカーボンフットプリント(CFP)宣言の実施が義務付けられ、その後CFPの規制は拡大していきます。日本でもグリーン購入法で一部製品にCFPとカーボン・オフセットが取り入れられるなどCFPとカーボン・オフセットは拡大しつつあります。CFPとカーボン・オフセットはライフサイクルアセスメント(LCA)を行う目的として重要で、LCAの手法にも大きく影響します。

 

求められるCFPとカーボン・オフセット

1)グリーン購入法の改訂

グリーン購入法では新たな重点検討事項として、原材料に鉄鋼が使用された物品や再生プラ利用などと共に、CFPを算定した製品又はカーボン・オフセットされた製品等に ついて対象品目の拡大が進められています。表のように多くの品目の基準や配慮事項にCFPとカーボン・オフセットが設定されています。

 

表. CFP又はカーボン・オフセットに係る判断の基準等の設定品目一覧

分野又は品目 カーボンフットプリント カーボン・オフセット
文具類 配慮事項
オフィス家具等 配慮事項 配慮事項
コピー機等 判断の基準 配慮事項
プロジェクタ 配慮事項
シュレッダー 配慮事項
テレビジョン受信機 配慮事項
電気便座 配慮事項
温水器等 配慮事項
LED照明器具 配慮事項 配慮事項
LEDを光源とした内照式表示灯 配慮事項 配慮事項
電球形LEDランプ 配慮事項 配慮事項
消火器 配慮事項
タイルカーペット 判断の基準 配慮事項
ニードルパンチカーペット、タフテッ ドカーペット、織じゅうたん 配慮事項 配慮事項

 

CFPの算定方法とカーボン・オフセットについては、下記とされています。

  • ◆ CFPの算定は、カーボンフットプリント(ISO 14067)、ライフサイクルアセスメント(ISO 14040及びISO 14044)又は経済産業省・環境省作成の「カーボンフットプリント ガイドライン」等に整合して算定したもの
  • ◆ 「ライフサイクル全般にわたりカーボン・オフセットされた製品」とは、当該製品のライフサイクルにおける温室効果ガス排出量の算定基準に基づき、ライフサイクル全般にわたる温室効果ガス排出量の全部を認証された温室効果ガス排出削減・吸収量(以下本項において「クレジット」という。)を調達し、無効化又は償却した上で埋め合わせた製品をいう。

 

2)EU電池規則

電池のライフサイクル全体を規制することを目的としたEU電池規則 が発効されました。2024 年8 月18 日以降、適合性評価が義務付けられ、CE マーキングのないバッテリーはEU市場で販売できなくなっています。電気自動車用バッテリーついて、CFP宣言を作成しなければならないと規定されています。

バッテリーのCFPの算出と報告は、電池規則および別途制定される委任法に規定される方法論に従うことになります。

CFP宣言の後、時期を追って市場に流通できる製品のCFPの上限基準や、リサイクル材の使用義務などを規制することが予定されています。

 

3)地球温暖化対策計画に示されたCFP計画

地球温暖化対策計画(令和7年2月)には、脱炭素型ライフスタイルへの転換として下記が記載されています。

2030年までに、例えば食品のカロリー表示等を参考に、企業等が提供する製品・サービスのライフサイクル全体での温室効果ガス排出を客観的な形で見える化(カーボンフットプリント等)し、この情報を商品の包装やICタグ、電子レシート等に盛り込むことにより、生産者・販売者・消費者間のコミュニケーションや位置情報・購買履歴と組み合わせた在庫・販売管理に活用することができる環境を整備する。さらに、カーボンフットプリント等の算定・表示に関する人材育成等の支援により排出量の見える化を一層推進し、 消費者が積極的に脱炭素に貢献する製品・サービスを選択できる社会を目指す。

 
 
LCAの変化

LCAに関しては、ISO14040「環境マネジメント−ライフサイクルアセスメント−原則及び枠組み」にはLCAの実施は次の4段階が示されています。

  1. a) 目的及び調査範囲の設定の段階
  2. b) インベントリ分析の段階
  3. c) 影響評価の段階
  4. d) 解釈の段階

LCAの目的は様々です。しかし、前述したCFPやカーボン・オフセットへの対応が重要となっています。その時にはLCAの目的は、CFPやカーボン・オフセットを実施することになります。調査範囲の設定以降に関しても、CFPやカーボン・オフセットで求められるものに従うことが必要になります。例えばデータの取得に関して、経済産業省と環境省が2023年3月に発行した「カーボンフットプリント ガイドライン」[i]では、CFP実施の意義として「CFP に取り組んだ企業は、それらの情報を元にして、排出削減に優先的に取り組むべき排出量が多いポイントを理解して効果的な排出削減対策を検討したり、 排出削減の効果をモニタリングすることを可能としたりする。」としています。また、例えばデータ収集に関しては、基礎要件として、次のように1次データの収集を規定しています。

 

・⾃社の所有⼜は管理下にあるプロセスの活動量については、原則として全て1次データを収集しなければならない。

・原材料や素材の排出係数は、⾃社の上流のサプライヤから得られる1次データを活用することが望ましい。

・サプライヤから1次データの提供を受ける場合は、あわせて当該データに関連する情報(排出量、算定の前提条件、バウンダリー、データ収集⽅法・品質等)の提供を依頼することが望ましい。

 

建築業界の取り組み

建築業界では、建物のライフサイクル全体にわたるCO2を含むGHG(温室効果ガス)排出量を算出するツールとしてJ-CAT(建物ホールライフカーボン算定ツール)[ii]を開発しており、排出原単位は主に日本建築学会(AIJ)の「AIJ-LCA原単位データベース」に基づいており、これは総務省産業連関表に基づいています。

J-CATは、資材量の削減、低炭素材料の採用、木材の利用、施工努力、建物の長寿命化、フロン削減、運用排出量と組み込み排出量の均衡化など、さまざまな温室効果ガス排出削減方法に対応できます。

さらに、「ゼロカーボンビル推進会議」での検討では、普及期には産業連関表ベース、成熟期には積み上げベースとすることを提案しています。そのメリットは、「ライフサイクルの各段階で投入した資源・エネルギー(インプット)と排出物(アウトプット)を詳細に収集・集計しているため、建材や建築における努力の詳細・個別分析が可能」としています。それに基づいて、SuMPO EPD[iii]等において多数の「建設・建築製品」のLCA手法を用いた定量的環境情報が開示されています。

 

比較可能なCFP算定ルール

CFPについては、製品比較は慎重に考える必要があるとの意見があります。しかし、日本製紙連合会は、「コピー用紙及び印刷用紙の比較可能なCFP算定ルールを策定しています[iv]。前述のようにグリーン購入法の判断基準としてCFP算定の導入が進んでおり、グリーン購入法の対象品目であるコピー用紙及び印刷用紙について、製品間で比較が可能なCFP算定ルールを策定されました。

 

まとめ

CFPやカーボン・オフセットは、カーボンニュートラル社会の形成には不可欠で今後普及拡大していくことが見込まれます。LCAを実施する際には、これらの動向も踏まえて考えていく必要があります。


[i] https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/carbon_footprint/pdf/20230331_3.pdf

[ii] https://www.ibecs.or.jp/zero-carbon_building/jcat/index.html

[iii] https://ecoleaf-label.jp/about

[iv] https://www.jpa.gr.jp/topics/nr.php?topicsid=99

 

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