生産性低下と事故による死傷者増加
日本の生産性が低く、事故による死傷者が増加している。DX、GX、経済安全保障の要請等を踏まえて、保安レベルの向上が求められます。
背景
日本の労働生産性が問題視されています。昨年末に公開された日本生産性本部の「労働生産性の国際比較」によると、製造業の労働生産性水準はOECD加盟諸国38ヶ国中で20位です。もうひとつ生産現場の問題として事故の増加があります。事故の増加による要因として、設備の老朽化と人材育成が挙げられています。日本の労働生産性を改善はできるか考えたいと思います。
労働生産性の低迷
製造業の労働生産性は、図1のように2000年にトップでしたが、その後、2005年に7位に落ち、2020年以降は20位となっています。
労働生産性全体に関しては1970年が24ヶ国中の19位で、1980年以降にOECD加盟国は増加していきましたが、順位は2017年までは20位前後でした。しかしその後、製造業の労働生産性低下も影響しスロベニア、イスラエル、チェコやエストニアなどにも抜かれ、2020年から28位になっています。
2024年から製造業の給与総額は上昇していますが、労働生産性は低迷したままです。労働生産性が改善されなければ、給与の上昇は困難になると思われます。
なお、本コラムでは製造業の労働生産性を主として取り上げましたが、サービス産業と小売業の労働生産性も低迷しています。

図1. 日本の製造業の労働生産性順位の変遷
出典: 労働生産性の国際比較2025 概要をもとに作成
死傷者事故の増加
労働災害による死亡者は図2のように1970年以降減少し続けていますが、休業4日以上の死傷者数は2010年頃から増加傾向にあります。

図2. 労働災害による死傷者数、死亡者数 (1965 年〜2024 年)
出典: 独立行政法人労働政策研究・研修機構webサイト
事故原因に対する取り組み
事故の原因に関して、産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会(2025年3月)での資料「産業保安を巡る環境変化に伴う安全確保に向けて」では、我が国が直面する環境変化として次の点が記されており、これまで以上の取り組みが望まれます。。
①DX、GX、経済安全保障の要請等を踏まえたエネルギー需給構造の転換
♦ エネルギー需給構造の転換に伴う施設・設備等の多様化・増大においても、安全性確保が大前提
②人口構造の変化
♦ 我が国の人口は、2040年までに約1.1億人まで減少する見込み。生産年齢人口も大きく減少の見込み。
♦ 業界団体等からは、産業保安に関わる分野の人材獲得は非常に厳しいとの声もある。
③環境変化により想定される産業保安分野への影響
♦ 働き方改革、人手不足に対応するための省力化投資、DXが一層進み、こうした新技術にも対応しつつ 保安レベルを確保するための組織体制の再構築、保安人材の育成ニーズが増大することが想定される。
♦ 再エネ分野では、従来型の太陽電池発電設備や風力発電設備の増加に留まらず、例えば、実装に向けた開発が進むペロブスカイト太陽電池では、曲面のある建物の壁面やガラス窓への設置等、多様な形態、 場所への導入が進み、事業所数の大幅な増加が想定される。
♦ 水素・アンモニア分野では、水電解装置や大型貯蔵設備、パイプラインといった供給設備のほか、産業熱・ モビリティや発電等の新たな消費形態の実用化等、多様な設備・施設の大幅な増加が見込まれる。また、 従来取扱い経験の少ない新たな分野として、例えば、CCSについて、将来の事業拡大に伴い、導管輸送・ 貯留工作物等の大幅な新設・増加が見込まれるほか、合成メタンについて、製造設備の増加等の傾向が 想定される。
♦ かつて太陽電池発電や風力発電でみられたように、新たな技術分野や市場の拡大に伴って、設置形態が 多様化するとともに、参入する事業者が多様化し、産業保安の確保を担う主体の裾野が一層拡大することが想定される。
♦ 近年の自然災害の激甚化・頻発化に伴い、ライフラインを始めとするインフラにおいて国土強靱化への対応が求められる中、施設・設備の更新需要の増加が想定される。
今後の安全確保に向けた視点としては、次の3点が示されています。
①産業保安人材の不足を克服した保安レベルの確保・向上
保安人材の不足を克服し保安レベルの確保・向上を図るためには、スマート保安技術の目的や利活用の条件を踏まえた上で、その効果が最大限発揮される保安体制や組織マネジメント、人材育成の取組について 包括的に検討を進めることが重要。
新技術の実装を見据えた保安規制・技術基準の整備
②新技術の速やかな社会実装と当該技術に係る保安の確保を高度に両立するためには、これまで以上に官民が連携し、科学的データを取得しつつ、外部機関の活用や国際基準も意識しながら、保安規制・規格 の整備を進めることが必要。
③実施主体の多様化にも対応した保安レベルの確保・向上
新たな技術分野や市場の拡大に伴って参入する事業者が多様化し、産業保安の確保を担う主体の裾野が一層拡大することが想定される中、事業者の保安責任を前提としつつ、保安レベルの確保・向上を可能 とする環境整備を続けることが重要。
非正規、業務委託の課題
上記の業構造審議会の分科会の中では次の点も課題として挙げられています。
「保安人材が不足する中で、新技術への対応を含め、保安レベルを維持・向上していくためには、社内の人材育成、保安人材の最適配置、法定の資格者や外部リソースの活用を含め、多様な専門人材を適切にマネジメントし保安組織全体で必要な保安力を保持する体制のあり方についてどのように考えるか。」
非正規社員や業務委託職員に対しては、法律により指導、指揮・命令に関して制限があり、また、基礎教育を行うことなどに関して課題があります。資格の取得だけでなく、この点については別の機会に触れたいと思います。
[ii] 図1 労働災害による死傷者数、死亡者数|早わかり グラフでみる長期労働統計|労働政策研究・研修機構(JILPT)
