EHS総合研究所

Share

〈EHS総合研究所 コラム1〉中小企業も求められる再エネ電力の活用


2021年2月15日

EHS 総合研究所
所長 則武祐二

「中小企業も求められる再エネ電力の活用」

-顧客からの要求だけでなく、セロカーボンシティが進む中で事業機会にも-

 

読者の方々の住んでおられる自治体の多くが、ゼロカーボンシティ宣言をしていることをご存じだろうか。2021 年 2 月 4 日時点で 226 自治体、人口約 9,505 万人と日本の人口の 4 分の 3 を占める自治体がゼロカーボンシティを声明しています。

 

出典 環境省サイト: 01_ponti_210204.pdf (env.go.jp)

 

図のように、1年間で急激に増加しています。
その背景のひとつに、自治体で増加している豪雨等の気候災害の増加があります。そのため約50の自治体が気候非常事態宣言を行っています。
国としての動きも、2020 年10 月26 日に菅首相の所信表明の中で、2050 年カーボンニュートラル脱炭素社会の実現が目指すことが宣言されました。これをきっかけとして、日本で停滞していた気候変動対策への取り組みが、急発進することになったように感じます。

 

カーボンニュートラルを達成するためには、CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization Share and Storage:二酸化炭素回収・利用と貯蔵)等の実現しなければならない課題も多々あります。しかし、これらの課題に挑戦し、実現できれば、それは日本の産業界にとっても新たなビジネス機会となります。菅首相も、カーボンニュートラルへの挑戦は、日本の新たな成長戦略だといくつかの場で発言しています。また、ここ数年の豪雨や猛暑など気候変動が原因と考えられる災害が世界中で発生しており、気候変動防止の活動は加速することが望まれています。10 月30 日には菅首相から関係閣僚に対して、いくつかの指示が出されました。小泉環境大臣には、「新たな地域の創造や国民のライフスタイルの転換など、カーボンニュートラルへの需要を創出する経済社会の変革や、国際的な発信に取り組んでいただきたい」と示されました。

 

日本の地域には再エネの供給力が豊富なところが多くあります。図2 に示すように、再エネポテンシャルを地域別にみると、多くの地域において電力需要量を上回るポテンシャルが存在し、地域の発展に貢献できる可能性が高いことが言えます。地域循環共生圏の構築が事業機会として有望であると言えます。

 

出典:環境省「地域の脱炭素化の取り組みの促進について(地球温暖化対策の推進に関する制度検討会第3 回資料)」より

図2.再生可能エネルギーの地域別導入ポテンシャル

 

一方で、すでに欧米では政府だけでなく、投資家が主導で企業に気候変動への取り組み加速を促しており、それは日本企業にも拡大しています。TCFDi、SBTiiiおよびRE100iiiに賛同・参加する日本企業が増加しています。この3 つの活動は、いずれも参加する大企業だけの取り組みに留まらず、中小企業含めたサプライチェーンの企業にも要望され波及していくことが想定されています。

 

SBTi では、温室効果ガスの排出量として、自ら燃料等を燃焼して直接排出するものをScope1、電力など利用するエネルギーを作る段階で間接的に排出されるものをScope2 としています。ここまでを企業の排出量として算定するのは、地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)の考え方と同じです。しかし、SBTi では、下表に示す企業が購入する資材、サービスや資本財が生産されるまでに排出されるものなど広範囲にわたるものをScope3 排出量として算出を求めており、この合計がScope1~3 の合計の40%を超える場合は、この排出に対しての目標の設定を求めています。これに関してはサプライチェーンの協力が不可欠となります。

 

Cat.1 購入した製品・サービス
Cat.2 資本財
Cat.3 Scope1, 2 に含まれない燃料及びエネルギー関連活動
Cat.4 輸送、配送(上流)
Cat.5 事業から出る廃棄物
Cat.6 出張
Cat.7 雇用者の通勤
Cat.8 リース資産(上流)
Cat.9 輸送、配送(下流)
Cat.10 販売した製品の加工
Cat.11 販売した製品の使用
Cat.12 販売した製品の廃棄
Cat.13 リース資産(下流)
Cat.14 フランチャイズ
Cat.15 投資

 

このためSBTi 参加する日本企業では、大日本印刷、イオン、住友化学などサプライヤーに削減目標の設定を求める企業が増加しています。

RE100 では、制度上は現在はサプライヤーが使用する電力の再エネ化は求めていませんが、加盟企業である米国のApple は、2015 年にサプライヤー・クリーンエネルギープログラムをスタートし、Apple のサプライヤーであるイビデンや太陽インキ製造などがプログラムに参加し、使用する電力の再エネ化を進めています。中小企業、自治体等の再エネ活用を促すものとして2019 年10 月に「再エネ100 宣言RE Action」が設立されました。これはRE100 がグローバルに影響力のある大企業だけを対象としたものであるのに対し、企業、自治体、教育機関、医療機関等の団体が使用電力を100%再生可能エネルギーに転換する意思と行動を示し、再エネ100%利用を促進する新たな枠組みです。

中小企業の方々にも、再エネ利用拡大は必要になりつつあり、一方で地方にとって、再エネ拡大は循環共生圏構築による事業機会として期待されています。顧客から再エネ電力の活用を要求されるのを待つのではなく、地域の再エネ電力開発や販売を進める方々の協力を得て再エネ電力を活用することが、地域の発展のためにも望まれる時期が近づいています。

 


i TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)
ii SBTi(Science Based Targets initiative:組織が科学的根拠に基づく目標設定を行うイニシアチブ)
iii RE100(100% Renewable Electricity:企業が事業を100%再エネ電力で行うことをコミットするイニシアチブ)

キャリアパートナーズ

お問い合わせCONTACT