EHS総合研究所

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〈EHS研究所 コラム10〉国連気候変動枠組条約第26回締結国会議(COP26)の結果と評価


2021年12月3日

EHS 総合研究所
所長 則武祐二

「国連気候変動枠組条約第26回締結国会議(COP26)の結果と評価」

石炭火力発電の扱いに関して批判があるが、全体としては評価できるだろうか?

 

 

背景

10月31日から11月13日まで、英国のグラスゴーでCOP26が行われました。当初の予定を1日延長して「グラスゴー気候合意」が採択され終了しました。期待していた主なものは次の2点でした。

・パリ協定では努力目標だった1.5℃目標をどのように扱うか
・パリ協定第6条(市場メカニズム)の進展

 

1.5℃目標に関しては、1.5℃が強調されたものの「気候変動の影響は、摂氏1.5度の気温上昇の方が摂氏2度の気温上昇に比べてはるかに小さいことを認め、気温上昇を摂氏 1.5 度に制限するための努力を継続することを決意する。 [i]」と努力目標に留まりました。市場メカニズムについては日本の意見が取り入れられました。1.5℃は努力目標となりましたが、合意に至り、COP26は一定の成果が得られたと評価されると思います。しかしながら、日本のマスコミなどでは、石炭火力発電の扱いが「段階的に廃止」から「段階的に削減」にとどまったことが大きく取り上げられ、アロク・シャーマ議長の涙と共に失敗かのような報道が多かったと思います。
IPCC第6次評価報告書(以下AR6)から考えて、1.5℃目標の合意の影響等に関して見てみたいと思います。また、若者の訴えに関しての報道も多いように感じますが、この点についても触れたいと思います。

 

1.5℃目標の扱い

パリ協定では「世界共通の長期目標として2℃目標の設定。1.5℃に抑える努力を追求すること。」で合意しましたが、COP26のグラスゴー気候合意では、前述のように1.5℃を強調したものになりました。2℃と1.5℃では、大きな違いはないのではと思われているかもしれません。しかし、AR6で2℃上昇と1.5℃上昇とでの違いは様々なことに関して示されています。例えば次のような点です。[ii]

今後2千年にわたり、世界の平均海面水位は、温暖化が1.5℃に抑えられた場合は約2~3m、2℃に抑えられた場合は2~6m、5℃の温暖化では19~22m上昇し、その後も数千年にわたり上昇し続ける(確信度が低い)。

多くの地域では、より高温の地球温暖化になると、複合的な現象が発生する確率が高くなると予測される(確信度が高い)。特に、熱波と干ばつの同時発生がより頻発になる可能性が高い。1.5℃の地球温暖化と比べて、2℃以上の温暖化では、極端現象が作物生産地域を含む複数の場所で同時に発生する頻度が増す(確信度が高い)。

 

これらのことが前述したグラスゴー気候合意の「気候変動の影響は、摂氏1.5度の気温上昇の方が摂氏2度の気温上昇に比べてはるかに小さいことを認め」につながっていることを認識する必要があります。

2℃と1.5℃でのGHG排出削減施策に求められ施策強度については、前回のコラムに参考として記載しましたカーボンバジェットに示した下表を見て頂ければと思います。

この表では、気温上昇を83%の高い確率で1.5℃に抑えるためには、2020年初頭からの総排出量を300GtCO2にしなければなりません。2℃に抑えるのであれば、その3倍の900 GtCO2を排出することができます。世界の二酸化炭素排出量は約34 GtCO2(2018年)ですので、1.5℃に抑えるためにはCO2排出量の多い石炭火力発電等は早期に廃止することが求められていることも理解できるかと思います。逆に火力発電施設の早期廃止は求められなかったからと言って、火力発電施設を新設するとしたら、早い段階でCO2吸収設備を設置しなければ稼働できなくなるという可能性があることも考慮して投資判断すべきだと思います。

 

 

表1.残余カーボンバジェット推定量

出典:気象庁暫定訳(2021年9月1日版)

 

当然企業は投資時点で将来リスクを考慮するので、今回のグラスゴー気候合意で1.5℃が強調されたことは評価できると思います。

 

若者の訴えに関して

グレタ・トゥーンベリさんの過激な発言が目立っており、日本の高校生たちもCOP26の会場であるグラスゴーに行き活動したことも報道されました。若者が積極的な発信することには期待と感激を覚えます。しかし、報道に期待することは(報道だけでなく視聴者にも)、彼女の主張の重要な点を伝えて頂きたいと思います。彼女の2018年のCOP24でのスピーチでは、IPCCの1.5℃特別報告書に記載された内容を主張しています。具体的には、気候変動の影響を回避するためには気温上昇を1.5℃に抑えることが必要、そのためには温室効果ガスを今後排出できる量は350 GtCO2しかないということを訴えていました。これを過激な主張と言ってしまうと、IPCCの報告が過激だと言っているのと同じことになってしまうと思います。

 

国内の若い人たちの多くが内容を理解し、選挙に行くなどの活動を通して、日本の政策や企業が変える活動につながっていくことを期待します。
気候変動枠組み条約ができ、その締結国会議として1995年COP1が開かれましたが、そのきっかけは1992年のリオでの地球環境サミットでカナダの12歳(当時)の少女セヴァン・スズキさんの「伝説のスピーチ」でした。グレタさんも30年以上前に科学では判っていたことに取り組んでいないことを指摘しています。「伝説のスピーチ」を聞いたことがない方は、是非聞かれては如何でしょうか。
少し脱線しましたが、セヴァン・スズキさんは、スピーチの世代交代として、日本も含めた子供のスピーチをご自身のwebサイトで公開されています。[iii]

このコラムについて、ご意見やご質問があれば、遠慮なく頂ければと思います。
宜しくお願いします。

 


[i] 環境省暫定訳から抜粋COP26カバー決定「グラスゴー気候合意」環境省暫定訳.pdf

[ii] 環境省暫定訳(2021 年9 月1 日版)より

[iii] セヴァン・カリス・スズキさんのwebサイトbio – Severn Cullis-Suzuki (severncullissuzuki.com)

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