EHS総合研究所

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〈EHS研究所 コラム12〉「循環経済社会を形成に向けて」
第2回 適切に素材を使用した製品・サービス を「買う責任」


2022年2月8日

EHS 総合研究所
所長 則武祐二

「循環経済社会を形成に向けて」

第2回 適切に素材を使用した製品・サービスを「買う責任」

循環型社会へ移行するためには、消費者の行動が不可欠。

消費者が「買う責任」を果たすためには何が効果的か?

 

背景

循環経済社会形成への課題は前報で述べました。循環型社会形成に最も効果的なのは規制的手段だと思いますが、規制的手段に関しては、次回以降に述べたいと思います。今回は自律的な経済社会を成り立たせる手段のものとして、消費者の買う責任に関して述べたいと思います。消費者の購入行動の変化が、製品・サービスの提供者に伝わり、それによって、製品・サービスの環境性能が大幅に改善されることが期待されます。実際に消費者の購入行動でノンフロン冷蔵庫の普及が急に進んだことがあります。しかし残念ながら、そのような例は少ないでしょう。本コラムでは消費者の行動変化を促す施策について、筆者の経験も含めて示します。また、最後まで読むのは面倒という方に向けて、まとめを最初に記載しましたので、ご覧頂ければと思います。

 

 

まとめ

循環経済社会形成に対して「買う責任」はどのように果たせるかについてのまとめです(私見)。結論から言うと、一般消費者が役割を果たすのは非常に難しいと思います。しかし、企業が原材料を買う立場で果たすべき役割は大きく、それを後押しするためには、グリーン購入法などの政府調達等で、循環資源利用や長期使用可能な製品を調達することを明示し、実行されることが不可欠だと思います。理由は下記です。

 

・一般消費者は、どのように環境に良いかが明確に理解できないと行動しない。

・環境問題が多様化する中、循環経済に関して判りやすくすることは難しい。

・企業の材料選択時に、材料の再生材利用率などの循環性能が見えるようにする必要がある。

・材料を調達する企業は、消費者の行動変化がないと材料の変更を進めることは難しい。

・政府の消費行動は、企業は無視できず対応を進める可能性が高いので、先進性が示されれば効果は大きい。

 

後述しますEPEAT[i]は政府調達との連携を含めて循環型社会形成に効果的だと考えられます。

 

 

1. タイプⅠ環境ラベル

複数の環境側面に配慮したタイプⅠ環境ラベルとして、日本ではエコマークが有名で、海外ではブルーエンジェル(ドイツ)、ノルディックスワン(北欧)、テンサークル(中国)などがあります。他に単一の環境問題に関しての、FSC認証などの制度があります。いずれも運営団体で製品群ごとに基準を定め認定するものです。

残念ながら、インテージの調査にあるように、消費行動に与える影響は大きくなさそうです。

 

「出典:「インテージ 知る Gallery」2020年5月25日公開記事」[ii]

 

環境問題が多様化する中、消費者に環境効果を判りやすく伝えることは、益々難しくなっています。循環経済に関して、既存の環境ラベルの基準に追加しても、新たな制度を作っても、一般消費者に受け入れられる可能性は少ないでしょう。今から25年ほど前にノルディックスワンのノルウェーの責任者の方と話したときに、タイプⅠ環境ラベルは、いずれ役割を終えると話されていたのを思い出します。理由は、2点でした。環境問題の多様化により、ひとつの制度の中で製品・サービス良いものとそうでないものを判定するのは無理があるということ。もう一点は、消費者の環境問題に対する理解が深まり、製品・サービスの環境性能を正しく表示し、それを見て消費者が判断するようになるということでした。残念ながら、後者は、いまだに実現していません。

 

 

2. 政府調達基準

日本の循環型社会を形成するための法体系にも、グリーン購入法が「国が率先して再生品などの調達を推進」と位置付けられています。2021年11月に出された「グリーン購入法に基づく環境物品等の調達の推進に関する基本方針の改定案」では、循環型社会に関しては、「認定プラスチック使用製品」に関して示されてるだけで、具体的な特定調達品目の基準の中には、ほとんど反映されていません。

米国では、連邦法や大統領令により定められており、再生品については包括的再生品購入ガイドライン(CPG)の中で再生品やリサイクル品として購入すべき品目の最低基準を定めています。また環境ラベルや後述するEPEATなどを民間の制度も考慮して優先調達するように推奨されています。

EUでは公共調達指令[iii]により基準等が定められています。エネルギーや化学物質管理など広範囲な環境側面に対して規定されており、循環型社会に関しては、「保守終了管理」の章において細かな規定が示されています。昨年3月に示されたパソコン等の基準案[iv]では、使用後の収集、再利用やリサイクルに関しても示され、例えば使用・回収後に輸出する際の扱いに関しても示されています。廃棄物に関する規制やタイプⅠ環境ラベルとの連携も行われています。

 

 

3. 製品の環境性能を見えるようにする制度

タイプⅠ環境ラベルとは異なり、製品・サービスを一律の基準でグリーン製品として認定するのではなく、環境性能を消費者に見えるようにし、購入時の参考とできるようにするものです。

日本では、グリーン購入ネットワーク(GPN)のエコ商品ねっと[v]があります。製品やサービスの環境情報と事業者の環境面・社会面の取り組みに関する情報を掲載し、購入者が自らの考え方で選択して購入することを促しています。多くの地方公共団体が調達の際に参考にしているとされています[vi]

海外では、米国で始まりカナダやオーストラリアなどでも活用されているEPEATがあります。EPEATの基準は電気電子分野の学会であるIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)がIEEE1680「環境評価」[vii]として定めるもので、世界中の企業、NPO等の技術者が多数参加して定められます(2012年のIEEE1680.2では私も含めて200名以上が参加)。様々な環境性能を掲げ循環型社会に向けた基準が定められており、います。EPEATはブッシュ政権下では大統領令で政府調達基準になるなど大きな影響力があります。GPNのエコ商品ねっとと比較しての循環型社会に向けた長所を下記に示します。

 

・政府調達において参照されている。

・Must項目に加えてオプション基準の適合率により、金銀銅の3つのレベルに分類され、購入者が選択しやすい。

・使用済み再生プラスチック含有量の開示や資源循環に関する多岐な基準が示されている。

・LCA結果の公表など多くの情報公開が要求されている。

・基準策定に企業だけでなくNPO等の多くの技術者が参加できる。

・多数の国の技術者が参加し、いくつかの国、地域の規制・基準が引用される。

 

ここまで記載したような制度が有効に機能し、消費者や政府機関の適切な購入活動がきっかけとなり、企業が環境性能を向上させ競争することが促されることが望まれます。

 

このコラムについて、ご意見やご質問があれば、遠慮なく頂ければと思います。

宜しくお願いします。

 


[i] About EPEAT | EPEAT Registry

[ii] 認証ラベル・マークがついていたら買いたくなる商品は? – 知るギャラリー by INTAGE

[iii] EU基準 – GPP – 環境 – 欧州委員会 (europa.eu)

[iv] EU GPP Criteria for cleaning services (europa.eu)

[v] 「買う」から始めるエコ | エコ商品ねっと 環境情報データベース (gpn.jp)

[vi] DBleaflet140819.pdf (gpn.jp)

[vii] Browse Standards | Get Program | IEEE Xplore

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