EHS総合研究所

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〈EHS総合研究所 コラム5〉木材文明への回帰とサーキュラー・バイオエコノミー


2021年6月28日

EHS 総合研究所
所長 則武祐二

「木材文明への回帰とサーキュラー・バイオエコノミー」

気候変動による土地利用への影響、気候変動緩和のための土地活用、
そこからは木材文明への回帰が見える。
欧州が進めるサーキュラー・バイオエコノミーとの関係は。

 

 

背景
日本の農林水産業の実質GDPの推移を図1に示したが、林業は微増しているが、農業と水産業は減少が続いています。

図1.農林水産業の実質国内総生産の推移(内閣府:国民経済計算年次推計より作成)

 

 

気候変動による影響と緩和策により、農地の減少と森林・バイオエネルギー用地の増加
農林水産業は、気候変動によりどのような影響を受けるか、また、気候変動の緩和と適応のためにどのようなことが望まれるでしょうか。2019年8月にIPCCが土地関係特別報告書(SRCCL)を発行しました。これは気候変動および適応、砂漠化、土地の劣化および食料安全保障との関連で、陸域生態系における温室効果ガスのフラックス、持続可能な土地管理に関する科学的知見を評価したものです。

この中で、「気候変動が土地分野にもたらすリスク」が記されていますが、熱帯地域や乾燥地帯などが中心で、日本の農林水産業に関わりそうなものは少なく、下記程度です。
・極端な降水現象の頻度及び強度は多くの地域において増大すると予測される(確信度が高い)。
・フードチェーンを途絶する極端な気象現象の規模及び頻度が増大するにつれ、食料供給の安定性は低減すると予測される(確信度が高い)。
興味深い点は、社会経済的成長及び土地管理が、耕作地、牧草地、バイオエネルギー耕作地、森林及び自然の土地に配分された土地の相対的な量を含む土地システムの展開に影響を与え、気候変動の緩和策の効果が示されています。図2の3つの経路が示されていますが、いずれの場合も、バイオエネルギー耕作地と森林は増加し、牧草地と耕作地は減少するとしています。

図2.社会経済的成長、緩和策及び土地を関連づける経路
(出典:IPCC土地関連特別報告書政策決定者向け要約-環境省仮訳)

 

土地管理と集約化により農地・牧草地は削減することができ、気候変動の緩和策として有効な植林やバイオエネルギーのために土地利用を増加できることなどがあげられています。

 

 

木材文明への回帰とサーキュラー・バイオエコノミー

ドイツの環境歴史学者のヨアヒム・ラートカウiが、著書「木材と文明」iiの中で、森林と木材は、単なる燃料と資材ではなく、工業原料でもあり、ヨーロッパでは文明の中心であったとしています。産業革命以降、燃料は木炭から石炭へ、材料は木材から鉄へと変化しましたが、木材工業における技術革命等により、ヨーロッパだけでなく日本を含めたアジアでも新たな「木の時代」への展望を期待しています。
欧州森林研究所iiiは昨年9月に「経済の真のエンジンとしての自然への投資-幸福に向けたサーキュラー・バイオエコノミーのための10項目の行動計画」ivを発表しました。タイトルが示す通り、経済のエンジンとして自然に投資し、持続的に幸福な社会を目指し、そのためにサーキュラー・バイオエコノミーへの移行を進めるための計画となっています。
設定された10項目は下記です。

① 持続可能な幸福に焦点を当てる。
② 自然と生物多様性に投資する。
③ 繁栄のため公平な分配を生成する。
④ 土地、食糧、健康システムを全体的に再考する。
⑤ 産業セクタを変革する。
⑥ エコロジー視点で都市を再考する。
⑦ 有効な規制の枠組みを作成する。
⑧ ミッション指向のイノベーションを投資と政策に提供する。
⑨ 資金へのアクセスを可能にし、リスクテイク能力を強化する。
⑩ 研究と教育を強化・拡大する。

そのうちの2点について、紹介します。①の持続可能な幸福に焦点を当てるということは、「現在の市場取引のみに焦点を当てているGDPなどの現在の経済指標を、自然資本および社会資本からの幅広い非市場貢献を含む、人間の健康を含む持続可能な幸福の新しい指標に置き換えることを意味します。」と記されています。
④の土地、食糧、健康システムを全体的に再考するということは、「農業や森林資源などの生物資源は、通常、より多くの人々によって所有および管理されており、化石資源と比較すると、領土のより広い部分に分布しています。サーキュラー・バイオエコノミーは、地域社会の参加と共同開発された場合、より広い地域にわたって繁栄の公平な分布を生み出す大きな可能性を秘めています。」とされています。日本で進められる地域循環共生圏構築と通じる部分があります。

 

 

まとめ

気候変動の緩和策の観点、欧州にあった木材文明への回帰、サーキュラー・バイオエコ
ノミーに関して紹介しました。いずれについても。農業は土地利用の管理と集約化等によって、途上国の食糧問題は解消し、生産量を増加しつつも、利用する土地面積は減少させることができます。一方で森林については再生可能エネルギーとしての活用増加、
CO2吸収量の増加、再生可能資源の活用増加、自然環境と生物多様性の保護等のために土地面積の拡大は必要かつ可能とされています。
もとひとつの共通点は、目指す方向に向けて投資が進むように、経済指標を変えていくなどの政策を早期に変化させていくことが必要とする点です。
森林に関しては、日本は国土の3分の2が森林である森林大国です。世界に先駆けてサーキュラー・バイオエコノミーへの移行を進め、途上国に対して技術と政策で貢献できることが望まれます。

 


i ヨアヒム・ラートカウ(Joachim Radkau):独 ビーレフェルト大学名誉教授。1943年生まれ)
ii 「木材と文明-ヨーロッパは木材の文明だった」ヨアヒム・ラートカウ著(山縣光昌訳)、2013年築地書館
iii 欧州森林研究所(EFI: European Forest Institute):フィンランドに本部を置く国際機関で、現在は37か国が関与している。
iv 「経済の真のエンジンとしての自然への投資-幸福に向けたサーキュラー・バイオエコノミーのための10項目の行動計画」New Action Plan puts nature at the heart of the economy | European Forest Institute (efi.int)

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