EHS総合研究所

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〈EHS総合研究所 コラム7〉
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書   第Ⅰ作業部会報告書の公表-これまでの経緯


2021年8月24日

EHS 総合研究所
所長 則武祐二

「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書

第Ⅰ作業部会報告書の公表-これまでの経緯」

-IPCC第1次評価報告書の公表は31年前の1990年、
今度こそ後悔しない方針、施策を実施することはできるか?-

 

 

今回の趣旨

2021年8月9日に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、第6次評価報告書第Ⅰ作業部会報告書(自然科学的根拠)の政策決定者向け要約(SPM)を公表しました。報告書の本体は編集作業等を経て、12月頃に公表される予定です。SPMの内容については、テレビ、新聞等でも取り上げられているので、今回のコラムでは、SPMの内容紹介よりも第1次評価報告書が1990年に公表されてからを振り返ってみたいと思います。

これまでの31年間の気候変動対策が十分でなかったことは、気温上昇が進み、世界中で被害が増大していることからも明らかです。今度こそ、後悔をしない方針・施策を実施していくことが必要だと思います。

 

 

IPCC評価報告書の変遷

IPCCでは第1次1990年に公表後、下記のように評価報告書を公表してきました。
・1990年 第1次評価報告書
・1995年 第2次評価報告書
・2001年 第3次評価報告書
・2007年 第4次評価報告書
・2014年 第5次評価報告書

 

それぞれの評価報告書は、下記の3つの作業部会の報告書が順次公表されていきます。

・第Ⅰ作業部会(WGⅠ)報告書: 気候変化の自然科学的根拠
・第Ⅱ作業部会(WGⅡ)報告書: 気候変化の影響・適応・脆弱性
・第Ⅲ作業部会(WGⅢ)報告書: 気候変動の緩和

 

作業部会の報告はIPCC総会で審議され、指摘事項等を調整の上で公表されます。
WGⅠでは、今回のように政策決定者向け要約(SPM)が公表され、その後に総会での議論を踏まえた編集作業等が行われてから公表されます。今回は2021年12月頃に公表される予定となっています。

さて、第1次評価報告書が公表されてから、31年経っていますが、当時と内容は変わったでしょうか。

 

第1次評価報告書に示されていたポイントとして、下記があります。

・人間活動に伴う排出によって、温室効果ガス(CO2、メタン、フロン、一酸化二窒素)の大気中の濃度は確実に増加しており、

 このため、地球上の温室効果が増大している。

・モデル研究、観測および感度解析によると、CO2倍増時の全球平均地上気温の感度は5~4.5℃の間であると予想される。

 

 

もちろん、1990年当時は気象データも少なく、確実性は低いことは事実でした。報告書にも次のことが但し書きされています。

・IPCC(我々)の気候変化に関する知見は十分とは言えず、気候変化の時期、規模、地域パターンを中心としたその予測には

 多くの不確実性がある。

・温室効果が強められていることを観測により明確に検出することは、向こう10年間内外ではできそうもない。

 

 

図. 第1次評価報告書等の予測と実際の観測データの比較(第6次WGⅠSPMに追記)

 

 

今回のSPMに第1次評価報告書等での予測と実際の観測データとの比較が、図のように示されています。第1次評価報告書の予測に対して、実際の気温上昇が若干高い程度で、約30年間の観測データと予測には大きな差異はありません。

 

 

政策・社会・企業は後悔しない対応をできなかったか?

ノーリグレットポリシー(no regrets policy)いう言葉をご存じでしょうか。1996年頃にIPCC等での議論に出てきたようです。気候変動防止に積極的な行動を取らずに、気候変動により被害が現実になれば、対策すれば良かったと後悔することになります。それに対して、積極的な行動をし、もし気候変動が起きなかったとしても、持続可能な経済発展に複数のメリットをもたらします。積極的な行動を実施すれば、いずれの場合も後悔することはないとするものです。リコーが1998年に環境経営を提唱し、環境綱領 を改定する際にも考慮した考えです。

 

1990年の段階では難しかったとしても、その後の早い段階で、脱炭素社会への政策転換を示し、脱炭素社会に必要な技術開発を産業界と共に進めれば、余裕をもって計画的に進めることができ、海外との競争も有利に進めることができたのではないでしょうか。産業革命以降の気温上昇を1.5℃未満に抑えるためには、2030年までの活動が重要とされています。1990年には40年あった期間が、現在残された期間は9年しかありません。もっと早く着手していれば、後悔は少なかったと思います。

 

さらにさかのぼると、1972年に世界的ベストセラーになった「成長の限界」 。大気中の二酸化炭素についても2000年に380ppmになるとの予測も示していました。まことしやかに、この本を否定する人たちはいましたが、真摯にとらえる必要があったと思います。実際に2015年に大気中の平均濃度は400ppmを超えています。

 

 

 

新型コロナウィルス対策にも後悔しない戦略を

昨年来、世界中で、新型コロナウィルス対策についても、「後悔しない政策(No-regret policies)」を望む声が高まっています。最悪の事態を想定して、対策すべきものは実施し、少なくとも、どのように対応するかは決めておくべきだったのではないでしょうか。
新型コロナに対する野戦病院や看護師の予備役制度などは、昨年中に検討しておけば良かったのではないでしょうか。政治家の方々が、今まで考えられることをしてきたから、後悔することは何もないと考えているとしたら、もっと恐ろしいと思います。

 


i 16.pdf (ricoh.com)

ii 1972年にローマクラブが発表、資源の多消費などを続ければ100年以内に地球上の成長は限界に達するなど、資源の多消費等に警鐘をならした。

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