EHS総合研究所

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〈EHS総合研究所 コラム8〉サーキュラー・エコノミーに不可欠となる循環性指標と、その情報伝達


2021年10月1日

EHS 総合研究所
所長 則武祐二

「サーキュラー・エコノミーに不可欠となる循環性指標と、その情報伝達」

循環経済社会の進展には何を指標とするのか、
それはどのように収集、評価することになるのだろうか?

 

背景

サーキュラー・エコノミーは「循環経済」と訳されていることが多いですが、その用語の意図としては、単なる資源循環ではないことは明らかです。「経済」については、経済性を考慮する、経済的に成り立たせる、経済的に成り立つものを行うなどが考えられます。経済社会が循環型になることを目指すものと考えた方が近いように思います。

 

製品の省エネ性能向上は、顧客のエネルギー消費量の削減やエネルギーコスト低減に結び付き、訴求しやすく、また、気候変動対策については、TCFD等により企業の取り組みの必要性と開示は進みつつあります。それに比べ、資源循環への取り組みは、資源循環に配慮した製品を作っても顧客への訴求効果がないことや投資家からの開示要求も活発ではありませんでした。

しかしながら、サーキュラー・エコノミーに関して製品開発や情報開示に大きな影響を与えそうなそうな動きがあります。その2つの動きについて紹介します。ひとつは、EUでのサーキュラー・エコノミーに関するEUタクソノミー規則です。もうひとつは、ISO/TC323「サーキュラー・エコノミー」での国際標準化についてです。

 

 

(1)EUタクソノミー規則

EUは2020年6月に欧州議会でタクソノミー規則を採択しました。EUタクソノミー規則は、EU気候・エネルギー目標の達成を目的とした産業政策です。グリーンウォッシュの回避など投資家と消費者を保護することなどを意図し、金融市場参加者の情報開示を規定するもので、次表の6つの技術スクリーニングを段階的に策定し、運用していくこととされています。

 

環境目標 運用開始時期 タクソノミーによる情報開示
1.気候変動緩和 2021年末まで 金融市場参加者 : 2021年12月末までに開示

大企業 : 2021年の会計年度の開示から適用、2022年中に開示

2.気候変動への適応
3.海洋・海洋資源の持続可能な利用と保全 2022年末まで 金融市場参加者 : 2021年12月末までに開示

大企業 : 2021年の会計年度の開示から適用、2022年中に開示

4.サーキュラー・エコノミーへの移行
5.汚染防止管理
6.生物多様性と生態系の保護・回復

 

今回のテーマであるサーキュラー・エコノミーに対する技術スクリーニング基準は、まだ策定されていませんが、企業が環境に配慮したとする情報開示を行う際にサーキュラー・エコノミーに関するものも規定に従って開示する必要が出てきます。また、EUのエコデザイン指令[i]との連動等も考えられているようです。決定・運用が開始されれば、EU向けの製品はサーキュラー・エコノミーに配慮した設計を義務付けられることになります。

 

[i] EUエコデザイン指令2009/125/EC(ErP指令):エネルギー消費量を減らす目的で製品グループ毎に製品の環境配慮設計を義務付けるものであったが、最近はライフサイクル全体を含めることになり、テレビ等の家電で長期使用を可能にするような基準も織り込まれている。

 

 

(2)ISO/TC323「サーキュラー・エコノミー」

ISO[i]では2018年にフランスの提案により、投票の結果サーキュラー・エコノミーの技術委員会(TC)の設置が決まり、2019年5月にTC323として第1回の総会が行われました。現在はTC323には、次の5つのWGが設置され、規格の開発が進められています。

[i][i] ISO:  International Organization for Standardization(国際標準化機構)

 

タイトル 主査
WG1 用語集、原則、フレームワーク、マネジメントシステム標準 フランス/ブラジル
WG2 循環経済の発展と実現のための実践的アプローチ 日本/ルワンダ
WG3 循環性の測定と評価 オランダ
WG4 循環経済の実践:経験のフィードバック フランス/ブラジル
WG5 製品の循環性データ シート ルクセンブルク/中国

 

今回のテーマにはWG3とWG5で開発される規格に注意したいと思います。

 

WG3では、ISO59020.2「循環性フレームワークの測定」として資源循環性に関するデータを収集、計算し開示するのか等が検討されています。データをサプライチェーンから求めることも検討されています。組織だけではなく、個別製品としての循環性を求め、開示することが検討されています。循環性に関して国際規格化されると、最近、見かけることが多くなった「リサイクルに適した」、「マテリアルリサイクルに優れ」や「資源循環性が良い」などの表現に影響することも考えられます。

 

WG5では、ISO59040「製品の循環性データ シート」が検討されています。ルクセンブルクが開発した、サプライチェーンを通して製品の循環性を伝達するシステムをベースとすることが意図されています。製品含有化学物質の伝達に活用され、株式会社キャリアパートナーズでも中小企業の活用支援を行っているchemSHERPA[i]との関係も懸念されます。日本からも積極的な意見提示がなされ、中小企業の負担が大きくならないことを望みます。

[i] chemSHERPA:アーティクルマネジメント推進協議会(JAMP)が運営する情報伝達の仕組みchemSHERPAについて – chemSHERPA by JAMP

 


[1] EUエコデザイン指令2009/125/EC(ErP指令):エネルギー消費量を減らす目的で製品グループ毎に製品の環境配慮設計を義務付けるものであったが、最近はライフサイクル全体を含めることになり、テレビ等の家電で長期使用を可能にするような基準も織り込まれている。

[1][1] ISO:  International Organization for Standardization(国際標準化機構)

[1] chemSHERPA:アーティクルマネジメント推進協議会(JAMP)が運営する情報伝達の仕組みchemSHERPAについて – chemSHERPA by JAMP

 

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