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脱炭素経営とは?企業にとってのメリットと課題について解説

脱炭素経営とは?企業にとってのメリットと課題について解説

公開日:2024.03.25

近年、脱炭素経営の実現を目指す企業が増えつつあります。脱炭素経営を推進することでどのようなメリットを得られるのか、具体的にどのような取り組みが求められているのか、疑問に感じていた方も多いのではないでしょうか。

今回は、企業が脱炭素経営を推進するメリットや実現に向けた課題、企業に求められる取り組みについてわかりやすく解説します。脱炭素経営を推進する際の具体的な進め方とあわせて見ていきましょう。

脱炭素経営とは

はじめに、脱炭素経営とはどのような経営戦略・事業方針を指すのか、基本的な考え方を押さえておきましょう。脱炭素経営が注目されている理由とともに理解しておくことが大切です。

脱炭素の実現を目指す経営戦略・事業方針

脱炭素経営とは、「脱炭素」の実現を目指す経営戦略および事業方針を掲げる企業経営のことを指します。2016年のパリ協定の発効をきっかけに、各国が温室効果ガスの削減目標を掲げ、具体的な取り組みを検討するようになりました。

日本においては2020年に政府がカーボンニュートラルを宣言し、2050年までに温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させるという目標を掲げています。日本における温室効果ガスのうち、78%は企業や公共事業によって排出されていることから、脱炭素に向けた取り組みには一般企業の行動が欠かせません。

脱炭素経営が注目されている理由

脱炭素経営が注目されている背景として、脱炭素を実現する取り組みの推進が企業経営においてプラスの作用をもたらすことが挙げられます。持続可能な経営・事業の実現に向けて取り組むことにより、企業として新たなビジネス機会を捉えられるからです。

このように、脱炭素経営は企業にとって義務的に・否応なく取り組むものではなく、ステークホルダーからの評価を高めるとともに、新たな取引先やビジネスチャンスを創出するための取り組みといえます。

脱炭素経営を推進する5つのメリット

企業が脱炭素経営を推進することにより、具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。主な5つのメリットについて見ていきましょう。

メリット1:顧客との信頼関係の醸成

脱炭素経営の推進は、顧客との信頼関係の醸成につながります。グローバル企業を筆頭に、大企業の多くは脱炭素経営に向けて明確な目標を掲げているケースが少なくありません。この目標を達成するには、自社のみの取り組みに留まらず、サプライチェーン全体での取り組みが不可欠となります。そのため、取引先企業に対しても脱炭素経営の推進を求める動きが広がりつつあるのです。

脱炭素経営を積極的に推進していくことで、顧客の要望を先取りできます。顧客が取引先に求める取り組みを早期に実践しておくことにより、より強固な信頼関係の醸成へとつながるでしょう。

メリット2:企業の社会的評価が高まる

脱炭素経営を積極的に推進することで、企業のイメージアップにつながり社会的評価が高まります。求職者や投資家からの評価が高まれば、より有利な条件で事業を推進しやすくなるでしょう。

若年層(中高生・大学生)を対象に実施した調査結果によれば、環境問題や社会課題に解決意欲をもっている若者は約6割に達しており、こうした問題の解決に向けて取り組む企業で働きたい人が全体の47.2%を占めています(※)。脱炭素経営の推進は、環境問題や社会課題に関心のある人材にとって「就職先を選ぶ基準」になり得るのです。

※出典:日本総研「若者の意識調査(報告)—ESGおよびSDGs、キャリア等に対する意識— 」2020年8月13日

メリット3:融資を受けやすくなる

脱炭素経営への取り組みは、金融機関の評価を高めることにもつながります。結果としてより有利な条件で融資を受けられる可能性があるため、企業にとって資金調達をしやすくなる可能性があるのです。

実際、脱炭素経営を推進する企業向けの商品を取り扱っている金融機関も見られます。脱炭素経営に関する取り組みについて条件を満たしている企業であれば、資金調達の選択肢が増えることになるのです。このように、融資を受けやすくなることは脱炭素経営を推進するメリットといえるでしょう。

メリット4:コスト削減につながる

脱炭素経営を実現するには、非効率な設備やプロセスを改善する必要があります。エネルギーコストの抜本的な見直しにつながり、結果としてコスト削減効果が得られるでしょう。

事業に要するエネルギーコストの抑制は、設備の刷新やプロセスの大幅な変更など、企業にとってさまざまな面で負担となり得ます。明確な目標や目的がなければ、容易に達成できるものではありません。脱炭素経営の実現という目標を掲げることは、エネルギーコストの大胆な見直しを進める重要なきっかけになるはずです。

メリット5:社員のモチベーションの向上・採用強化につながる

脱炭素経営の推進は、社員のモチベーション向上や採用の強化にもつながります。環境問題や社会課題の解決に積極的に貢献している企業として認知されることにより、企業の社会的評価が高まっていくでしょう。社員にとって、自身が所属する企業の社会的評価が高まることがモチベーションの向上につながることは想像に難くありません。

また、社員から評判の良い企業は、求職者からの人気も高まるケースが多く見られます。自社の取り組みや方針に共感し、誇りをもって働く社員が増えれば、求職者から就職先や転職先として選ばれる可能性も高まるでしょう。このように、脱炭素経営の推進は採用強化に向けた戦略の一環としても重要な意味をもっているのです。

脱炭素経営の推進に向けた課題

脱炭素経営を推進するにあたって、解決を図るべき課題がいくつかあります。主な課題は以下の3点です。

課題1:脱炭素に向けた事業構造の変革が求められる

脱炭素経営の実現は、既存の事業構造では困難なケースが出てくることが予想されます。事業構造の抜本的な変革が求められるなど、中長期にわたる事業計画の見直しを迫られるケースもあるかもしれません。

たとえば、現状では温室効果ガスの排出量が問題視されていない事業であっても、将来的に事業が拡大するにつれて温室効果ガスの主要な発生源となることもあり得ます。このように、現状だけでなく今後の事業環境の変化も含めてビジネスモデルを検討しておかなくてはなりません。脱炭素に向けた事業構造の変革は、企業にとって重要な課題の1つとなるでしょう。

課題2:取引先との関係が変化する可能性がある

脱炭素経営の推進は、自社単独の取り組みで完結するとは限りません。サプライチェーン全体での取り組みが必要になれば、脱炭素経営の推進に消極的な企業との取引を継続するのは難しくなる可能性があります。

現状の取引先との関係が変化することになれば、新たな調達先や仕入先を発掘する必要に迫られたり、コスト増を余儀なくされたりするケースも出てくるかもしれません。場合によっては、取引先にも脱炭素経営を推進するメリットへの理解を促し、積極的に取り組む方針へと転換を図ってもらう必要があるでしょう。

課題3:最も影響が大きい課題は「必要なノウハウや技術、人員が不足している」

脱炭素経営の推進は、大半の企業にとってこれまで経験したことのない取り組みとなるでしょう。事業構造の変革も視野に入れて実行していくとなれば、新たなノウハウや技術、人材が必要になることも十分に想定されます。こうしたノウハウ・技術・人員の不足は、企業にとって非常に大きな課題となり得るのです。

脱炭素経営を推進するにあたり、外部の知見・ノウハウを活用することや、専門知識をもつ人材のサポートを得ることも、課題解決のための選択肢として視野に入れておく必要があります。既存のリソースの範囲内での可能な対応にこだわらないことも、脱炭素経営を実践していく上で重要な視点といえるでしょう。

脱炭素経営の実現に向けて求められる取り組み

脱炭素経営の実現に向けて、企業には具体的にどのような取り組みが求められるのでしょうか。とくに重要度の高い3つの取り組みについて解説します。

TCFDへの取り組み

TCFDとは、気候変動によるリスクと機会の認識、およびその目標と戦略の策定・開示に関する枠組みのことです。具体的には、企業活動によって生じることが想定されるリスクと機会を次の4項目に分類します。

  • ガバナンス(Governance):気候課題に関連する組織構造や意思決定プロセス
  • 戦略(Strategy):気候関連課題が事業や戦略、財務に影響を与える重要情報の開示
  • リスク管理(Risk Management):気候課題に関わる規制要件や管理プロセス
  • 指標と目標(Metrics and Targets):戦略やリスク管理に用いる指標、目標と実績の開示

戦略に関しては、気候変動シナリオ分析の実施が推奨されています。気候変動に関連の深い技術や原材料、制度と、具体的にどのようなリスクが想定されるか、またどのような事業機会が生まれるかを洗い出し、それらのリスクを織り込んだ場合の望ましいシナリオ・望ましくないシナリオを想定するという手法です。こうした手法を取り入れることも、積極的に検討しておく必要があるでしょう。

SBTへの取り組み

SBTとは、パリ協定で掲げられた目標に則し、温室効果ガスの削減目標を科学的根拠にもとづいて策定している企業を認定する国際的なイニシアティブのことです。具体的には、「工業化前から世界全体の平均気温の上昇を1.5℃に抑える」こと、さらに2030年までに二酸化炭素排出量を半減させる短期目標に加え、2050年までに実質的な二酸化炭素排出量ゼロを達成する「ネットゼロ」が目標として掲げられています。

企業は、目標の申請から5〜15年先の目標年を設定し、平均気温の上昇を1.5℃下回る水準に抑える削減目標(削減率4.2%/年以上)を設定しなければなりません。さらに、短期目標とネットゼロ目標を目指すことが推奨されています。

RE100への取り組み

RE100とは、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの使用拡大を目指す国際的な枠組みのことです。事業に必要な使用電力を再生可能エネルギーで100%まかなうことを目標とする企業が加盟しています。

具体的な取り組みとしては、再生可能エネルギーによる発電を自社で行うか、もしくは再生可能エネルギーによってつくられた電力を購入する方法が考えられます。再生可能エネルギーの供給設備や供給体制の整備を待つのではなく、企業群の要請により電力会社に開発を促したり、国への法令整備を促したりすることがRE100の主要な狙いです。

脱炭素経営の実現に向けた取り組みの進め方

脱炭素経営の実現に向けた取り組みは、まず現状を把握した上でリスクと機会の分析を実施し、目標設定・施策の実行へと移るというのが大きな流れです。この流れに沿って脱炭素経営を推進していく際の、より詳しい進め方について見ていきましょう。

中長期的な事業環境の変化を見通す

事業環境は時々刻々と変化しています。たとえば、人口動態や社会・経済構造の変化、生活者の価値観の変化といった要素が、事業環境に大きな影響を与えるからです。

脱炭素経営の実現に向けた取り組みにおいても、現状の温室効果ガスの排出源のみならず、今後の事業環境の変化も見据えて削減目標を策定していく必要があります。現状ありきではなく、エネルギーコストの上昇や炭素制約なども見越して中長期的な事業計画を柔軟に検討していく必要があるでしょう。

自社の現状と目標達成までの見通しをつける

脱炭素経営の実現に向けた取り組みの第一歩は現状把握です。事業の推進によって排出されている温室効果ガスの量とその排出源を明確にし、目標とのギャップを可視化しておく必要があります。

また、自社だけでなくサプライチェーン全体の現状を把握しておくことも重要なポイントです。自社の事業におけるCO2排出の特徴を捉え、排出量の削減効果が高いと見込まれるプロセスの目星をつけておきましょう。

脱炭素経営を実現するための施策を検討する

実際に温室効果ガスの排出削減に取り組むべき排出源を見極めていきます。削減効果が高いと見込まれるプロセスであること、削減に向けた具体的な取り組みが実行可能であることが、適切な施策を見極めるポイントであり、さらに事業構造の変革も考える必要があります。

なお、脱炭素経営を推進するには中長期的な取り組みが欠かせません。短期的な取り組みに終始することのないよう、できるだけ抜本的な変革を検討することが重要です。たとえば、温室効果ガスの排出量がより少ない部品を提供可能なサプライヤーに切り替えることにより、中長期にわたる温室効果ガスの削減効果が期待できます。

目標達成に向けたロードマップを策定する

脱炭素経営に向けた取り組みは、中長期にわたるものとなります。今後の取り組みを時系列でまとめ、戦略に落とし込んでいくことが大切です。現状実施することが決まっている取り組みのほか、今後検討していくべき課題も含めてロードマップを策定しましょう。

ロードマップは中長期にわたる取り組みを想定して策定するものの、状況が変化すれば当初策定したロードマップと実態にずれが生じることもあり得ます。ロードマップは適宜見直し、実態に即したものに更新していく必要があるでしょう。

自社の取り組みについてステークホルダーに公表する

脱炭素経営の実現に向けた一連の戦略、考え、成果などを社内外のステークホルダーに公表し、共有化を図りましょう。脱炭素経営の推進に積極的に取り組んでいる企業として認知を広めていくことが重要です。

数値データなどを断片的に公表するのではなく、脱炭素経営の実現に向けた戦略を策定した背景や、根底にある理念・方針などを一連のストーリーとして発信していくとよいでしょう。自社のブランドストーリーや企業理念と連動するストーリーとして一貫性をもたせることにより、ステークホルダーに深い理解を促すことができます。

必要に応じて脱炭素経営に協力してくれるパートナーを活用する

脱炭素経営の実現に向けた取り組みには、高度な専門知識やノウハウ、多くのリソースを必要とします。既存のリソースのみで対処可能な範囲で施策を検討することで、短期的なアクションプランに留まってしまうケースも十分に想定できるでしょう。脱炭素経営の実現に向けて協力を要請できるパートナーを見つけ、活用していくことも重要なポイントです。

まとめ

脱炭素経営の推進は、ステークホルダーの信頼醸成やコスト削減、持続可能な経営環境を実現する上で非常に重要な課題といえます。今回紹介したポイントや取り組みの進め方を参考に、脱炭素経営の実現に向けた具体的な取り組みを検討してみてください。

脱炭素経営を推進していくにあたりパートナーを探す際には、短期的なコンサルティングだけでなく、継続的なサポートを得られるかどうかが重要なポイントです。脱炭素経営の実現に向けた取り組みに伴走するパートナーをお探しの事業者様は、ぜひ弊社へご相談ください。

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