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西研コラム

〈第19回〉海外出張~愉しいことばかりではないけれど


2017年8月30日

毎年 3 月になると、フロリダで開催される Battery Seminar に行くのが、私にとって、ここ何年かの年中行事になっている。今年も、出席する予定にしていて、当然、飛行機で行くことになるが、飛行機ってやつは、何度乗っても危なっかしくて、イヤな感じがしますよね。

 

 

一昨年のフロリダからの帰りだったけれど、成田地方に強い風が吹き荒れ、着陸の直前に強風によるいわゆるウィンド・シェアで機体が急に左に傾いてヒヤリとしたことがあった。窓から外を見ていたら(いつもは、通路側の席を選ぶのだが、こういう時に限って窓際しか取れない)、左の翼が地面に付きそうになった。「危ない!」、胆を冷やした瞬間、機体は急上昇して雲の上まで一気に出て事なきを得た。機長の咄嗟の判断と腕がよかったのだろう。やっぱり飛行機って嫌だなあ。次に掲げる、松田道弘「ジョークのたのしみ」(ちくま文庫)に登場する男の気持、よく分かる。

 

 

  その男が飛行機にのるのは、これがはじめてでした。エンジンが始動してうなりはじめると、彼はしっかりと目をつぶり、座席の手すりをかたくにぎって百まで数をかぞえてから、目をあけて窓の外をみました。 

「おお、人があんなに小さくみえる」と彼はとなりの席の婦人に声をかけました。「まるでアリみたいにみえるじゃありませんか」 

「あれはアリですよ。飛行機はまだとんでいません」 

 

 

昨年のこの seminar は 3 月 14 日が初日で、成田を 3 月 13 日に出なければならなかった。そうです、3.11 の翌々日という緊迫した状態の中だったんです。

成田空港ビルに入って驚いたのは、地震の影響で飛行機が飛ばなかったため出国できなくなった外国人が、ビル内の床に毛布などを敷いて大勢寝ていたこと。まるで、難民収容所みたいだった。

それでも、われわれの飛行機はほぼ時間通りに出発し、問題なくシカゴ経由でフロリダまで飛ぶことができた。

Seminar の開催地は Fort Lauderdale という市で、マイアミの北、車で 1 時間くらいのところにある小さな地方都市。あたりは、水路が発達していて、水上バスなどが走り廻り、フロリダのヴェニスなどと呼ばれている。この水路沿いに多くの別荘が建っていて、どれも大きなクルーザーが係留してある。そう、ここは避寒地で、北部に住む金持ちたちが冬にそれぞれの別荘で過ごすのだ。seminar をやる 3 月中旬の気温が最高 25℃ くらい、最低は 20℃ を少し切るくらいじゃないだろうか。日本の 3 月と云えばまだ寒い日もあるが、当地は実に過ごしやすい。

別荘族は暖かくなれば北へ帰るので、4 月を過ぎても当地に留まっているヤツは貧乏人だということになっている。しかし、リーマン・ショック以降は、水上タクシーで通りかかると、クルーザー付の立派な別荘のかなりのものに、For Sale とか For Rental などという立て札が見られるようになった。経済危機のおかげで別荘族は、「北が寒くなっても、フロリダに行くことの出来ない貧乏人になってしまった」ってわけだ。日本では震災、アメリカでは経済基盤の激震に見舞われた中での seminar だった。

 

 

アメリカに行かれたことのある方は多いと思われるので、次のようなことはすでにご存じだと思うけれど、イヤな国ですね、こういう点があるというのは。

アメリカ在住の知人の車で、マイアミにドライブしたときのことだが、ガソリン・スタンドで給油するというので、ついでにトイレを使おうとしたら、店の人からトイレの鍵を借りないといけないという。日本のようにいつでも誰もが自由に使用可能な状態にしておくと、トイレ内に悪いのが隠れていて、入って来た人から金品を奪うことがあり、常に施錠しておくのだという。

ホテルの部屋にはもちろんミニ・バー(冷蔵庫)があるが、その鍵をチェックインの時に渡される。何のために鍵があるか? どうして施錠しておかないといけないのか。冷蔵庫に付属の説明書によると、housekeeping する者が使うからだという。従業員を信用しないと言うのも我々には理解しがたいことだが、実際にメイドなどが冷蔵庫の中のものを失敬することがあるからこうしているというのだ。ほんとにアメリカという国は何事も油断ができないということなのですね。

 

 

このような不愉快な話はさておき、愉しい話をしましょう。フロリダの seminar では、会場の近くに Tokyo Sushi という日本食レストランがある。名前の通り、寿司も出すが、刺身、お浸し、酢の物、揚げ豆腐、焼き鳥、果てはヒジキの煮物まで出てくる。シュウマイ、餃子、焼きそば、ラーメンなんかもある。従業員(日本人アルバイター)はわれわれが日本人だと分かると、「日本人の方にはラーメンはお薦めしません」と言った。どうも、自信作ではないようだ。しかし、Fort Lauderdale のようなところで、若い日本人女性(学生?)がいるとは思いもよらなかった。店主は日本人だが、その下で働く板前は、韓国人が多いようだ。

 

 

寿司にソフトシェルクラブの手巻きというのがあるのがいかにもフロリダで、揚げたカニ(ソフトシェル・クラブ)の片身が巻いてある。脚が突き出るように巻いてあるので、地元では spider 巻きと呼んでいるとのこと。これは、結構いけますよ。

 

 

Chima Brazilian Steakhouse というブラジル風焼肉屋にも行ってみた。日本でもテレビや雑誌などでブラジルの野外パーティが紹介されることがあるが、まさにその雰囲気が横溢していた。ステーキは全部で 17 種類あるというが、長いサーベルのようなものに肉を刺して焼いたもの(caipirinha)が有名。ボーイ(この店では、gaucho と呼ぶらしい)がこの caipirinhaを持ってテーブルの間を行き来しており、食べたいときはテーブルにある丸いカードの Yes, please と書かれた面を見せる。そうすると、gaucho は短剣のような包丁で切り取った肉を皿に入れてくれる。

欲しくないとき、食べたくないときは、裏の No, thank you という方を上にしてテーブルに置けばよろしい。

 

丸いカード赤.jpg丸いカード黒.jpg

 

 

私は、このカード、家に持ち帰りましたよ。女房が不味そうな料理を出してきたら、黒い面をテーブル上にさりげなく置くわけです。

この seminar は、3 月 17 日を挟んで開催されるのが常。この日は Saint Patrick’s Day なんですね。アイルランドの守護聖人とされるパトリック(4 世紀末から 5世紀中頃にかけての人)を記念する日で、緑色の服を着て祝うのが習いらしい。

セミナーに出席しているアイルランド系の人も、この日は緑色のものを何か身につけており、セミナーが終わるとその姿で近くのパブなんかに出かける。

 

 

アイリッシュ・パブ.jpg

 

この写真は、昨年(2011 年)の 3 月 17 日に撮ったもの。町中に緑色が溢れ、アイリッシュ・パブなどは、満杯になる。

 

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