EHS総合研究所

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〈EHS研究所 コラム25〉「カーボンフットプリントは普及するか?」


2023年3月7日

EHS 総合研究所
所長 則武祐二

カーボンフットプリントは普及するか?

カーボンフットプリント(CFP)が普及するかは、

CFPが環境への取り組みを適切に評価したものになり、

購入者が製品・サービスの購入時にCFPを参考にするかにかかっている。

 

 

背景

筆者がカーボンフットプリント(CFP: Carbon Footprint)[i]の公表に関わったのは、1999年に環境フットプリント(EF: Environment Footprint)[ii]公表の先駆けであった、スウェーデンのタイプⅢ環境ラベルのEPDにおいて、認証されたラベルを発行したことでした[iii]

 

それから24年経過していますが、CFPが十分に普及しているとは言えません。さて、2023年2月16日に経済産業省が「カーボンフットプリントレポート及びカーボンフットプリントガイドライン」に対する意見募集[iv]を行いました。さらに2月24日に閣議決定した「グリーン購入法の基本方針」において、複数の品目の判断基準や配慮基準に、CFPの算定および開示が追加されました。

 

しかしながら、CFPの本来の目的は算定と開示することではなく、CO2の排出量が低減されることです。その先にはCO2排出量をゼロとするカーボンニュートラルの実現があります。EFはCO2だけでなく、資源消費や化学物質による汚染等の環境負荷を低減することです。

 

その目的を果たすためには、製品等を購入する方が、購入時にその製品のCFPやEFを参考とすることと、参照できるように普及することが重要です。もうひとつ重要なことは、製品や組織のサプライチェーン全体の環境負荷低減への取り組みの成果が、CFPやEPに適切に表される算定評価が必要です。この2点について少し示します。

 

 

 

登録は拡大するか

日本でCFPおよびEFとしては、一般社団法人サステナブル経営推進機構のSuMPO環境ラベルプログラム[i]があります。プログラムの詳細等は、そちらのwebサイトを見て頂くとして、このプログラムでは、CFPとEFに該当する「エコリーフ」の2つのプログラムを扱っています。

 

現在のところ認定製品が多いのは、画像入出力機器と土木・建築関連です。この共通点はEFやCFPへの登録が要求事項に含められている国際規格等(EPEAT[ii]、LEED[iii])があり、登録側の企業が重視していることです。

 

来年度からは、グリーン購入法の基本方針の改訂により、コピー機、複合機の判断基準およびオフィス家具、テレビジョン受信機、照明器具等の配慮基準に下記が追加になりましたので、登録製品が拡大することが期待できます。

 

製品の原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクルにおける温室効果ガス排出量を地球温暖化係数に基づき二酸化炭素相当量に換算して算定した定量的環境情報が開示されていること。

 

 

 

購入時にどう見るか

CFPの登録製品が増えただけでは、環境負荷は削減されません。購入者が開示されたCFPやEFを参照し、CFPやEFが少ない製品を選択するようにならなければ、環境負荷は減りません。CFPやEFで、どのようなことが見えるかを、前述しましたエコリーフに、リコーのカラー複合機の「IM C6010」[i]が登録されていますので、それを例として紹介します。

 

エコリーフは複数の環境影響に関して開示するタイプⅢ環境ラベルです。「IM C6010」では、気候変動、酸性雨、資源消費に関して開示しています。「IM C6010」は環境面での特徴として、本体樹脂総重量の約50%に再生プラスチックを使用しています[ii]。また、省エネ性能も改善しています。

 

その結果ライフサイクル全体の気候変動負荷は、910kg・CO2eq[iii]、資源消費は、0.6kg・Sbeq[iv]となっています。残念ながら、エコリーフの算定基準が改定され、異なっているため比較はできませんが、前進機種の「IM C6000」[v]は、気候変動負荷は1387 kg・CO2eqとなっており、大幅に改善されているでしょう。ライフサイクル各段階での評価は図のようになっています。

 

見て頂ければ判るように、気候変動への影響であっても、使用時よりも原材料調達段階の方が大きいことが判ります。製品の購入時には省エネ性能以上に原材料調達の影響を確認する必要があります。購入活動の中で、CFP等を見て判断し製品を選択することが、製品開発者に、さらなる環境負荷低減活動を促すことになります。


図.IM C6010の気候変動と資源消費に関するライフサイクル負荷

(出典:IM C6010のエコリーフデータから作成)

 

 

 

 

排出削減の効果が適切に反映されるためには

① 一次データ利用の拡大

現在のところCFP等は算出・開示が目的となってしまっていることがあり、データ算出が容易な二次データを利用することが多くなっています。二次データは業界の代表値等によるものが中心です。二次データを利用していると、サプライチェーンでの改善活動を反映することができません。

また、サプライチェーン上にCO2排出量が著しく大きい事業者がいても、二次データを利用すれば問題とはなりません。できる限り一次データの利用が望まれます。算定基準において一次データの利用を推奨することが必要です。

 

②サプライチェーンでのCFPデータ伝達の加速

サプライヤーに対して、再生可能エネルギーの利用を促進する活動が広がりつつあります。その活動を最終製品のCFP等に反映するためには、サプライヤーが一次データの伝達を行い、それがサプライチェーンを通して、最終製品のCFP等に反映されることが望まれます。データの伝達が適切に行われなければ、サプライヤーが再生可能エネルギーの利用を加速しても、最終製品のCFPには反映されません。

サプライチェーンでの再生可能エネルギー利用や再生資源利用を加速するためにも、情報が伝達されることが重要です。

 

 

 

 

今後への期待

Green x Digital コンソーシアムの見える化WGが、サプライチェーンを通してCFP等のデータを伝達する実証実験を行ない、2023年2月15日に実証実験フェーズ1の成果報告書[i]を発行しました。一次データの伝達が進むことが期待されます。

 

エコリーフでは土木・建築関連の登録が増加しています。その理由は建築物のLEEDプログラムの影響と考えられますが、特徴的なことは、建築物の材料の登録増加が著しいことです。建築材料業界が温室効果ガスの削減活動を進め、その進んだ材料を使用した建築を消費者が望むようになれば、好循環が期待できます。

 

複合機や照明器具などに使用される材料もエコリーフ等の登録が進み、その材料を活用した最終製品のデータを、購入者が購入時の参考とするようになれば、好循環が進むようになります。前述しましたように、環境に良い材料が開発され、その一次データが利用可能になり、さらに購入者が最終製品の購入時にCFP等を判断材料として活用するようになっていくことに期待します。

 

以上

[i] CFP:CO2排出量等の気候変動のみを扱う環境ラベル

[ii] EF:気候変動だけでなく、資源利用や環境汚染などの多様な環境影響を扱う環境ラベル

[iii] タイプIII 環境ラベル | リコーグループ 企業・IR | リコー (ricoh.com)

[iv] カーボンフットプリントレポート及びカーボンフットプリントガイドラインに対する意見の募集について|e-Govパブリック・コメント

[v] SuMPO環境ラベルプログラム|一般社団法人サステナブル経営推進機構 (ecoleaf-label.jp)

[vi] EPEAT: Electronic Product Environmental Assessment Too

[vii] LEED: Leadership in Energy & Environmental Design

[viii] JR-AI-22253E_JPN (ecoleaf-label.jp)

[ixix] 主な特長 / RICOH IM C6010/C5510/C4510/C3510/C3010/C2510 / 複写機/複合機 / 商品・サービス | リコー

[x] CO2eq:温室効果ガスの影響をCO2を基準として、他のガスもCO2等価に換算し合計した値

[xi] Sbeq:鉱物資源消費の影響をアンチモン(Sb)を基準として、他の鉱物もSb等価に換算し合計した値

[xii] PDFå·®ã†Šæł¿ã†‹JEMAIæ‘’å⁄ºçfl¨AD19E1144 .xls (ecoleaf-jemai.jp)

[xiii] report.pdf (gxdc.jp)

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