EHS総合研究所

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〈EHS研究所 コラム27〉「海外で検討が進む、サプライチェーンでの 製品環境情報伝達の仕組み」


2023年5月8日

EHS 総合研究所
所長 則武祐二

海外で検討が進む、サプライチェーンでの製品環境情報伝達の仕組み

製品含有化学物質、循環性指標、そのために必要な情報伝達ツール開発が海外で進められています。

 

 

背景

製品含有化学物質管理には、サプライチェーンを通しての情報伝達が必要で、日本でもchemSHERPA[i]による伝達が普及しています。

しかし、最近はサーキュラーエコノミーやカーボンフットプリント、環境フットプリントでもサプライチェーン全体での取り組みと、その情報伝達の必要性が検討されています。製品含有化学物質管理に関しては、化学、電子部品、電気電子製品の有志企業による協議会が、海外に先駆けて仕組みを構築・対応しています。

 

しかしながら、サーキュラーエコノミー等に関連しては、海外の方がビジネス機会としても考え、積極的に展開を進めています。EU規制とも関連して、輸出企業と、そのサプライチェーンでは、対応を誤らないように注意する必要があると思います。

関連するいくつかの動きについて、紹介したいと思います。

 

 

 

製品含有化学物質管理に関して

2006年に17の企業が発起人となって、アーティクルマネジメント推進協議会[ⅱ](JAMP:Joint Article Management Promotion-consortium)が設立されました。

 

EUのREACH規制に適切に効率的に対応することが重要な課題でした。電気電子の最終製品企業だけでなく、サプライチェーン全体での課題と認識され、化学と電子部品の企業も積極的に参加されました。アーティクル(部品や成形品等の別称)が含有する化学物質等の情報を適切に管理し、サプライチェーンの中で円滑に開示・伝達するための具体的な仕組みを作り普及させることが、産業競争力の向上には不可欠で、業界横断で活動しました。2016年からは情報伝達システムをchemSHERPAに更新し運用しています。

 

中小企業が大きな負担がなくシステムを利用してもらうことが不可欠であるため、システムは無償で利用できます。大手企業は自社のCADシステムと連動させており、そのために会員としての参加が不可欠なこともあり、また化学物資管理に関わる情報を入手できることもあり、会員数は海外企業も含めて501社(2023年4月1日)まで増加しています。これまで経済産業省化学物質管理課の指導・支援もありましたが、今後、大幅なシステム改修が必要になった場合には、資金調達が課題となるかもしれません。

 

 

 

Gaia-X

Gaia-X[ⅲ]は2010年代後半にドイツを中心にEUで検討を開始し、2020年に正式に発足したとされています。2019年10月1日にドイツ政府が概要[ⅳ]を発表し、2020年2月18日にドイツとフランス政府のポジション[ⅴ]が発表されており、政府の強い関与が示されています。GAFA(グーグル、アップル、フェースブック、アマゾン)がクラウドプラットフォーマとしてデータを活用することを意図しているのに対して、Gaia-Xはデータとサービスが共通のルールで、安全に構築、照合、共有できる、オープンで透過的で安全なフェデレーションデジタルエコシステムを構築するとしています。

 

日本でもNECやNTTコミュニケーションズなど4社がメンバーになっており、世界でメンバーは377(2023年5月7日)になっています。

 

製品の設計情報等をユーザーまで、バリューチェーン全体で情報共有するとされています。EUに入ってくる製品に関して最終段階までの情報共有を強く意識されていることが判ります。日本の最終製品メーカーや、そのサプライチェーン企業にとって、また、日本のユーザーが、どのように活用できるでしょうか。日本企業にとって負担が大きくならなければ良いのですが。

 

 

 

サーキュラーエコノミーの国際標準化とCirc Thread

サーキュラーエコノミーに関する国際標準化がISO/TC323で進められていることは、以前コラムで紹介しました。2023年4月にISO/TC323でリエゾン組織として参加が承認されたCirc Thread[ⅵ]は、明確にEUのサーキュラーエコノミー戦略の達成に貢献することを意図しています。製品のライフサイクル全体(部品、材料、化学物質のデータ、および関連する循環性、環境、社会、経済情報)にわたる情報交換を促進することを目指しています。資金はEUの資金提供プログラムであるHorizon2020[ⅶ]により調達され、すでに800万ユーロの資金が調達されたとなっています。家庭電化製品分野(食器洗い乾燥機、洗濯機、冷蔵庫など)と家庭用エネルギーシステム(ボイラー、バッテリー、ソーラーパネルなど)に焦点を当てユースケースをテストすることとしています。

 

 

 

情報伝達ツールのポイント

サプライチェーンの情報伝達は次のような課題があります。

 

  • ・サプライチェーンは中小企業の割合が高い
  • ・仕組みが乱立すると、多種の仕組みに対応するには負担が増加する
  • ・セキュリティ対策が必要で、製品のサプライチェーンがどのように構成されているかは重要な機密情報
  • ・海外のサプライヤーにも対応してもらえなといと展開できない
  • ・部品の構成も明らかにされては困る
  • ・情報伝達ツールの開発・維持費用は誰が負担するか

 

 

日本でも今回は紹介しませんでしたが、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が進めている「Green × Digital Consortium」[ⅷ]の見える化WGが検討しているプラットフォームもあります。EUはプラットフォームの開発は強く政府が関わっており、規制に伴う可能性もあります。日本企業、特に中小企業が対応に苦慮することがなぃかを注意していきたいと思います。

 

 

[ⅰ] chemSHERPA by JAMP

[ⅱ] JAMPについて – chemSHERPA by JAMP

[ⅲ] About Gaia-X – Gaia-X: A Federated Secure Data Infrastructure

[ⅳ] Project GAIA-X (data-infrastructure.eu)

[ⅴ] franco-german-position-on-gaia-x.pdf (data-infrastructure.eu)

[ⅵ] Circthread – An EU H2020 project

[ⅶ] Horizon 2020 (europa.eu)

[ⅷ] GxDコンソーシアム概要 | Green x Digital コンソーシアム (gxdc.jp)

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