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西研コラム

〈第13回〉NHKよ、もっとしっかり!!


2017年8月30日

こんなジョークがある(福田健『ユーモア話術の本』知的生きかた文庫)。

 

 

大学病院での話。

医学生を前にして、教授がこれから講義に入ろうとするところである。テーブルの上に、ビーカーが置いてあり、乳白色の不透明な液体が入っている。それを指さしながら、教授はしゃべりはじめた。

「ここに入っている液体は糖尿病患者の尿である。一種独特の甘酸っぱい味がするものである」

そう言ったかと思うと、指を突っ込んで、その指をなめてしまった。学生たちは顔を見合わせた。すると、教授は、

「諸君もやってみたまえ」

一同尻込みしていたが、やむなく一人が決心したように立ち上がり、目をつむって指を入れ、その指をなめた。以下、順ぐりにやりはじめ、とうとう最後の学生がやり終えたとき、教授は言った。

「医者には勇気が必要だ。メスを持つ者に勇気が欠如していたら、メスはふるえない。しかし、医者にはもう一つ大切なものがある。それは細心の注意である。わずかな徴候も見落とさない注意が要求されるのだ。

実は、わたしは人さし指を中に入れ、なめたのは中指である」

 

 

「細心の注意」が大切なのは何も医者だけではない。われわれ、サイエンスを生業とするものはみな同じで、たとえば、得られたデータの解釈には細心の注意が必要なことは言うまでもない。ところが、NHK には深く物事を考える人はいないようだ。

そんなことを考えたのも、ちょっと話題としては古いかもしれないが、世田谷区弦巻で高い放射能が検出されたという事件が 10 月 13 日にあったけれど、NHK は、データを表面的に雑に判断して、福島原発とすぐ結びつけたからなのだ。

朝 7 時の NHK テレビのニュースでその話を聴いたとき、すぐにこれはおかしいぞと私は思い、家内にも「これは原発には無関係だ」と断言した。家内は「でも東大の先生も原発が原因と言っているし・・・」と、取り合ってくれない。

素人の私でさえおかしいなと感じたのは他でもない。いくら除染しても、放射能が減らないとか、本来なら地上に近いほど高いはずの放射能が、地上 1.5 メートルほどの場所でもっとも高かったというのはおかしいと感じた。

しかし、東大の教授とやらが出てきて、「このようなホット・スポットは充分に考えられる」とのご託宣。これで、家内を含め皆が原発説に納得してしまった。

ところが、ご承知のように、翌朝のニュースでは、一転して、近所の家の床下にあったラジウム 226 が出す放射能が原因で、原発とは無関係だとの発表があった。

私がその時思ったのは、NHK は前日の東大教授をなぜもう一度登場させて意見を訊かないのかということ。素人の私でさえ、データ的に説明できないことが多すぎると思ったくらいなのに、専門家がどうして世論をミスリードするような結論に至ったのか訊いてみたかった。この先生、学生時代には、よく考えもせずに“尿”を舐めた方のグループだったにかもしれない。

NHK も NHK だ。原発説と異なる見解も有り得るということをなぜ伝えないのか。東大教授を引っ張り出して、原発説を補強するというのは、権威を借りて言いくるめようといういつものやり方だ。

 

 

10 月 17 日には、これも NHK の朝のニュースだったが、リチウムイオン電池(LIB)用の正極で、コバルトなどのレア・メタルを使わずに、従来の正極の 1.3 倍の容量を持つものが阪大で開発されたという放送があった。開発者の准教授が出てきてインタビューに答え、「携帯電話の充電が 1 秒で出来るようになる」宣った。

Nature Materials の電子版に発表されたというので、インターネットで追ってみた。なるほど、記事がありました。トリオキソトリアンギュレン(TOT)というけったいな名前の有機化合物で 225 mAh/g の容量があるという。コバルト酸リチウム(LCO)の実効容量が 140 mAh/g だから 1.6 倍だし、ニッケル酸リチウムの 170 mAh/g と比べても 1.3 倍ある。

だが、「ちょっと待った」と言いたい。電池というのはサイズがまず決められることが多い。たとえば、PC 用の円筒形 LIB だと、直径 18 mm、長さ 65

mm と決まっている。図体が大きくては収納できないから、まずサイズありきなのだ。従って、mAh/g よりも mAh/cc の方が重要となる。

TOT は新規物質らしく、化学便覧などにも載っておらず、比重が分からない。有機物だからそれほど大きくはないと思うが、大きめに見積もって、2.0 として考えてみよう。LCO のそれは 5.1 なので、これをもとに計算すると、TOT の容量は 450 mAh/cc、LCO は 714 Ah/cc となり、早くも逆転してしまった。

もうひとつの問題点は放電電圧だ。Nature によると 3.8 V から放電が始まり、1.4 V までだらだら下がる充放電曲線が示されていた。つまり cut-off 電圧を 1.4 V という低いところまで引っ張って 225 mAh/g という数字を得ている。こんな放電カーブの電池が使い物になるだろうか? しかも、平均電圧を 2.6 V とすると、LCO 正極の電池は 3.7 V なので、電流値に電圧をかけたワット・アワー数(電池のエネルギーは電流量ではなく “W×時間”で表される)では、TOT が 1.17 Wh/cc、LCO が 2.64 Wh/cc となり、TOT のエネルギーは従来の 1.3 倍どころか、半分以下になる。

どうして、こんな材料を鬼の首でも取ったみたいに、NHK ともあろうものがニュースで大きく扱うのか理解に苦しむ。おそらく、「脱レア・メタル」という昨今かまびすしく言われるキーワードに引きずられてしまったのだろう。

それと 1 秒で携帯電話を充電などというインタビューをそのまま放映するのもおかしい。たとえば、1 Ah の電池が使われているとしよう。そうすると、1 秒で充電するためには、3600 A という途方もない大電流を流す必要がある。Nature に載っている充放電カーブから見ると、充電電圧は 3.8 V くらいだから、13.7 kW の出力を持った充電器が必要になる。こんな充電器を作ったら巨大な装置になり、とんでもない値段がするだろう。一次側(家庭用 100 V 電源)に流れる電流でも 137 A という大きな値になる。通常、一般家庭は 20~30 A くらいの契約だから、ブレーカーが落ちるかヒューズが飛ぶ。

こんなことはちょっと考えれば分かることなのに、さも素晴らしいことのように放送する NHK の神経を疑う。

敢えて言わせて貰うと、この准教授は現実を見ないで、空論をもてあそんでいるとしか思われない。取り敢えず、次のジョーク(植松 黎 編『ポケットジョーク ⑯』角川文庫)を捧げておこう。

「もし、この教室に愚か者がいれば、私は容赦なく立たせる主義です」学期の初め、教授はそう言って教室じゅうをみまわした。教室は静まりかえった。 すると一人の学生が立ち上がった。

「キミは、自分が愚か者だと考えているのかね」教授が驚いて尋ねた。

「そうではありません」学生が答えた。「でも先生おひとりだけを立たせておくのは、どうにもお気の毒だったものですから」


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