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西研コラム

〈第32回〉悪魔と結婚?


2018年1月10日

松澤一直『頭でわからないなら尻で理解しろ!』(ベスト新書)に次のような小噺が載っていた。

 

妻「あなたなんかじゃなくて、悪魔と結婚すればよかったわ!」

夫「それは無理だよ。近親結婚は法律違反だからね」

 

この妻のように、自分がやろうとしていることが法律に違反する行為だということに気づかない人が多いのかもしれない。道交法違反なんかはその代表的なものじゃないかな。

先日(2017/11/19)の朝日新聞「天声人語」に次のようなことが書いてあった。

 

外の世界を知る視線に、はっとすることがある。先日の本紙に載った投稿もそうだった。名城大准教授のマーク・リバックさんが「日本に来て、とまどったことのひとつは、日本は『信号機のない横断歩道は車優先』ということだ」と書いている▼母国の英国では、横断歩道に歩行者がいれば車は必ず止まる。先日訪れた豪州も同じで、日本育ちの子どもたちは驚き、感激していたという。東京五輪の年には多くの外国人が来日する。不幸な事故が起きぬよう歩行者優先を徹底してほしい。そう訴えた▼信号がないのに車が止まってくれると、小走りになってしまう自分に気づく。しかし考えてみると、停止しないのはれっきとした道路交通法違反である。歩行者はもっと怒っていいのだ▼今年8~9月、日本自動車連盟(JAF)が全国94カ所で実態調査をした。渡る人がいる横断歩道で停止した車は1万251台のうち、わずか867台だった。不名誉な数字は何を物語るか▼「お上を意識して動く。そんな日本社会の特徴が出ているのではないか」と、日本交通心理学会の太田博雄(ひろお)会長は言う。信号機のような明確な縛りには従うが、おとがめがなさそうな場面では緩みが出てしまう。自分たちの判断で安全をつくるのが苦手なのかもしれない▼歩行者優先が無理なら「日本では横断歩道では車は止まりません」と外国人に周知してほしい。リバックさんはそんな提案もしている。きわめて合理的である。そして情けない話である

 

私が運転免許を取ろうと自動車教習所に通っていた時、横断歩道についてはこう教えられた。「横断歩道の端に人が立っていたら、車は一旦停止するのがルールだ。その人は渡ろうとしているのではなく、単に人を待っているだけかもしれないが、ともかく人がいたら一旦停止すべきだ」と。

しかし、自分が横断歩道を歩いて渡ろうとしている時を歩行者の立場で思い出してみると、天声人語の言う通りで、車はまず停まってくれない。

以前書いたことがあるように、私は車に二度撥ねられているし、もう少しで危うく轢かれるところだったという場面も五度ほどあった。すべてのケースにおいて相手は右折車で、全部が右折のルールをまったく守っていなかった。右折車は「交差点の中心のすぐ内側を走らなければならない」というように道交法で決められている。極端な言い方をすれば、交差点の真ん中まで行って、そこで直角に曲がるのがルールだということになる。しかし、上に書いた私の事故や事故寸前のケースでは、相手の車はいずれもが中心まで行かず、それも極端に言うと、交差点の入り口ですぐに、45 度以下の鋭角で曲がっていた。

私は右側の歩道を歩いており、撥ねたのは後方から来た右折車で、私が渡り始めた時はまだ後方数百メートルにいて、交差点に達すると小回りで急カーブしてきたのだ。我々が交差点を渡る時、左右と前方は見るけれど、わざわざ後ろを振り返って、後方から来る車両まで確認しないでしょ?

ぶつからずには済んだが「あわや」という件は、左側の歩道を歩いていて、横断歩道を渡っていた時だ。前方から来た右折車で、やはり小回りしてきたのだが、前方からの車だったので、こちらも早めに気付いて、飛び退って衝突を免れた。それでも、ボンネットに右手をかけて車を押し戻すような格好にまでなったこともあった。

上記の 2 件の衝突事故の後にも、また一つの事故を昨年(2017)に経験している。やはり青信号で横断歩道を渡っていた時に撥ねられたのだった。前方からやってきた車があり、それはバイクだった。私が全然注意しなかったのは、方向指示灯を灯していなかったので直進すると思ったからだ。それがいきなり曲がってきて、左肩にぶつかってきた。向こう側の歩道に私が到達する直前だったので、咄嗟に歩道に飛びあがったから、ぶつかられた時も左肩をど突かれたという感じで、倒れる寸前で踏みとどまり、怪我はなかった。そのバイクは謝りもせず、そのまま逃げ去って行った。

これらの 3 件の事故を辿ってみると、2003 年 12 月、2010 年 1 月、2017 年 1 月の出来事で、7 年おきだったということになる。ということは、次にあるとすれば 2024 年か? だったら、2020 年の東京五輪は無事に迎えられそうだ。

事故はいずれも、日課にしているウォーキング中の早朝 5 時台に起こっており、真冬のことだからまだ暗いうちだった。車の運転手は時間的に言って通行人がいるとは想像できず、歩行者を見落としていたのか? でも、私は安全のために前後に一つずつ、点滅する小さいライトをぶら下げているし、交差点は大きな明るい街灯で照明されているから、見落とし難いと思うのだが、頭から「早朝だから歩行者はいない」と運転者は思い込んでいたのだろうか。

松田道弘編『世界のジョーク事典』(東京堂出版)にこんなジョークがあった。

 

 交通事故は自宅から 5 マイル以内のところで起こる確率が 95% だと聞いた男がどうしたか?

 引越しをした。

 

この伝でいくと、私もどこかに引っ越した方がいいかな。

もう一つ、最近のニュースでよく耳にするのが、高速道路などを逆走する車が多く、それが事故の原因になっているということだ。

加瀬英明『ユダヤ・ジョークの叡智』(光文社智恵の森文庫)に「逆走」と題する次のようなジョークがあった。

 

ボブが家に帰るために、いつものようにインターステイト・ハイウェイ 23 号をハンドルを握って走っていると、妻のネリーから電話がかかった。

「あなた、今、テレビでハイウェイ 23 号で、逆行して走っている車が、一台あるといっているわ! だから、気をつけてね!」

「ネリー! それが一台どころじゃないんだ! 何百台も、こちらへ向かってくるのだ!」

 

この話からすると、自分が逆走しているとは想像もしてないとうことか。

 

自動車ばかりじゃない。自転車にもルールを守らないのが余りにも多い。自転車は道交法では“車”として扱われている。だから、車道を走るというのが基本なのだが、歩道を当たり前のように走っていて、車道を走る自転車はほとんど見かけない。ご承知のように、自転車が歩道を走ってもいいというところには、「自転車通行可」という標識が立っている。従って、そのような標識のないところでは、自転車は車道を走らなければいけないということだ。でも、ほとんど守られていない。警官が歩道を自転車で走っている姿すら何度も見かけている。二、三台の自転車が横に並んで走っているポリスを見たこともある。

もちろん、弱者には法も気遣っていて、「運転者が13歳未満もしくは70歳以上、または身体に障害を負っている場合、および、安全のためやむを得ない場合」はどの歩道でも走ってよいことになっている。

「自転車通行可」の歩道であっても、自転車が通行する際には守るべきルールがいくつかある。あなたは、歩道では自転車はどこを走ることになっているかご存知ですか? 返ってきそうな返事は「左側」ですね。でも、それは違います。「えっ、じゃあ右?」と言われそうだがそれも違う。「じゃあ、どこを走るんだ。真ん中?」「違います!」

「じゃあ、走るところがないじゃないか」と怒られそうだが、決まりでは、「車道寄りの端」ということになっている。つまり、走る方向によって、右側通行の場合もあるし、左側通行の場合もある。いずれにしても、歩道では端っこを走らなければならない。ところが、これも朝のウォーキング中のことだったが、歩道(自転車不可のところです。念のため)を歩いていた時、後ろから来た自転車の運転者に怒鳴られ、「歩行者は道の端っこを歩け!」というとんでもない指摘を受けたことがある。「ここは自転車は走行できない歩道だから、車道を走るように」と注意せざるを得なかった。それから一週間ほどしたある朝、その自転車がすぐ私の脇の車道を走っていった。おそらくその日も歩道を走っていたが、前方を見て「あっ、またあいつがいやがる」と思ったのだろう。止む無く車道に移ったようだ。そこから 100 メートルくらい行ったところで、また歩道に戻ろうとしたらしい。ところが、歩道は車道より一段高くなっているでしょう? それを越えようとした際に直角ではなく斜めに行こうとしたらしい。ハンドルを取られてしまい、自転車ごと転倒してしまった。天が罰を与えたのだ。

自転車が歩道を走る際には、その他に、歩道では「徐行」、「歩行者優先」という決まりもある。それなのに、ベルを鳴らして歩行者を蹴散らしながらかなりのスピードで走る自転車もある。

考えてみると、「自転車通行不可」という表示はどこにもなく、「自転車通行可」の標識も数百メートルに一つくらいの間隔でしかないから、自転車で通りかかっても、その歩道が自転車 OK なのかダメなのかがすぐには分からない。だから、原則としては、自転車は歩道通行不可と取り敢えずは考えるべきだ。「自転車通行可」というのは、「自転車はこの歩道を走れ」ということではなく、「自転車が走ることは可能」という意味なのだ。

自転車による歩行者への事故が多くなっていると聞くが、上記のような状況だからさもありなんと思う次第。

それともう一つ訳のわからないことがある。下の写真は我家の近くのバス通りと並行の歩道に書いてある注意書きだ。これがどういう意味なのか私には分からない。「自転車は、歩行者に注意を払ってこの歩道を走るように」との注意を促すためと思う人が多いかもしれないが、この道路にはどこまで行っても「自転車通行可」の標識はないから、自転車は走ってはいけない歩道なのだ。もし、「自転車通行可」の歩道だとしても、この注意書きは車道寄りの端に書くべきだろう。こんな不適切な注意書きはここ一か所だけではなく、あちこちで見かける。この道路は区の管理だそうだから、区役所の人間が気を利かしたつもりで書いたものかもしれないが、大きな間違いだ。「歩道を走る違法自転車が多いから、歩行者は注意しなさい」という意味で書いたんだろうか。

 

同じような、違反する人が多いルールはいくつもある。しょっちゅう目にする(耳にする)のは電車内でのスマホによる通話ですね。それと歩きスマホ。注意すると逆に食ってかかられる恐れもあるから、うっかりしたことは言えない。電車などの優先席にちゃっかり座っている若者も多い。

 

さらに付け加えれば、当たり前のように無視されるのが、エスカレーターでの歩行だ。ほとんどのエスカレーターには「歩かないで」と書いてある。これは法律ではないけれど、転倒したり他人に怪我させたりする恐れがあるので、そのビルの管理者がそのような指示を出しているようだ。かく言う私も、エスカレーターを歩いて上っていた人に怪我を負わされたことがある。去年(2017 年)の夏のことだ。新幹線の或る駅で昇りエスカレーターの左側に立っていたら、右脇を若い女性が大きなショルダーバッグを左肩にかけて歩いてきた。そのバッグの金具が私の右腕の肘のあたりをひっかけ、そのまま上っていったから、大きな引っ掻き傷ができて出血した。真夏のことなので上着を着ていなかったから、金具で直接こすられて傷つけられたのだ。今でもその時の傷跡が残っているくらいの激しさだった。その女性に「エスカレーターでは歩かないように」と注意した。最近よく耳にする、怒鳴りつけるような乱暴な言いかたをしたわけでなく、静かに諭すように言ったのだが、返ってきた彼女の言葉は、「何よ! この変質者!!」というものだった。人に怪我をさせておいて、謝りもせずに通り過ぎようとする彼女の方がよほど変質者だと思うのだが、結局はそのまま行ってしまった。ひょっとしたら、「変質者」というのは自分に言い聞かせた自虐の言葉だったのか?

普通の一階分のエスカレーターだと、歩いても稼げる時間はせいぜい 5~10 秒くらいとのことだから、彼女はよほど急いでいたんだろうか。しかし、エスカレーターを歩いている人って非常に多い。秒単位で生活しなければならない人がそれほど沢山いるという事なのか? 日本人って、そんなに忙しいんだろうか。

 

ニュースによると、このところ野菜の値段が高騰しているので、農家などの畑から作物を盗んでいく者が後を絶たないそうだ。下の写真は朝のウォーキングで見つけたものだが、このような紙きれがぶら下げてあった。そこにはこう書かれていた。

 

「カラスさん、ハトさんイチゴをたべないで」と、孫が言っています。楽しみにしているのです。 畑のおじいちゃん

 

「カラスさん、ハトさん」と呼びかけているけれど、これは明らかに野菜泥棒に対して婉曲に注意をしているのだと思われる。私の知人に、山梨で果樹園を経営している人がいて、桃などを栽培しているが盗み取られることが多く、対策に頭を悩ませているそうだ。フェンスに電気を流そうかとまで言っている。

 

日常の生活を顧みると、犯罪とまでは言えないが、このようにルール違反はずいぶん多い。朝のウォーキングの帰りに近くのコンビニに立ち寄って買い物をすることがある。店の入り口の脇にはゴミ箱があり、客が店内で飲んだジュースかなんかの空き缶とか、手や口などを拭いた紙ナプキンを捨てるためのものなのだ。そこには「家庭ゴミを持ってきて捨てるのはお止め下さい」という貼り紙がある。ところが、今朝もそうだったが、車で来店し、大きなポリ袋一杯のゴミを三つも持って来て捨てているヤツがいる。車で運んできたということは、最初から意図的にやったことだ。良心はないんだろうか。

ウォーキング途中でよく見かけるのは、公園内などで野良猫に餌を与えている人だ。「野良猫にエサをやらないで下さい」という掲示板があちこちに立ててあるが、そんなものは目に入らないかのようだ。

このような注意書き、掲示はいろいろあるが、そういうものがあるということ自体が、やってはいけないという行為をやる人が多いということだ。

戸外でも禁煙場所が最近では多くなったが、歩きながら喫っている人は結構多い。でも、女性ならそういうところでも喫っていいかなと時々私が思う時がないではない。「タバコを吸う女の良い点は、男が口をはさむチャンスがあることだ」という説もあることを紹介しておこう(植松 黎 編『ポケットジョーク②』角川文庫)。

 

ここまで、自分が経験して来た「法律違反、規則違反」を中心に列挙してみた。「日本はルールを守り、犯罪が少ない国だ」などと言われるが、自分で経験し、見聞きしたものをこうやって書いてみると、大事に至らなかったからいいものの、まかり間違えばという行為も結構あったと思う。

この程度のことならいいだろうと規則を破っている人は、それがどういう結果を招きかねないかを一度は考えてみるべきだろう。「変質者」の女性も、怪我人が出るかも知れないとは思ってもいなかったのだろう。その意味で、最後に次のようなジョークを紹介してこの稿を終えることにする。可能性のある結果を考えて行動すべきだということだ。

モクタリ・ダヴィッド『イラン・ジョーク集』(青土社)にある“インクの値段”という笑い話だ。

 

息子が、悲しそうな顔で父親のところへ行った。

子「お父さん、インクの値段ってそんなに高いの」

父「いや、たいして高くはないよ」

子「じゃあ、どうしてお母さんは、ペルシア絨毯にちょっとインクをこぼしただけで、あんなに怒ったんだろう」

 

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